相続手続きの際に遺産分割協議書の提出を求められる場面があります。
「遺産分割協議書はどこでもらえるの?」「自分で作成できるの?」と疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
遺産分割協議書は、銀行や市町村役場・法務局などでもらえるものではなく、相続人が作成しなければなりません。
この記事では、遺産分割協議書の作成方法やポイント、必要な場面について解説します。
目次
【はじめに】遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、被相続人の財産を誰がどのように相続するのかを法定相続人全員で話し合い、合意した内容を記した書面です。
法律上、遺産分割協議書の作成義務はありません。
しかし遺言書がない場合、後になって「言った、言わない」などのトラブルにつながるかもしれません。
さらに、遺言書も遺産分割協議書もなければ、不動産や預貯金などの名義変更の手続きも滞ります。
このようなトラブルを回避するために、遺言書がない場合に相続人全員で遺産の分け方に関して話し合う「遺産分割協議」を行うのです。
預貯金や不動産、有価証券、債務などの相続財産について、遺産分割協議で相続人全員が合意した内容を遺産分割協議書にまとめます。
遺産分割協議書を作成する流れ
遺産分割協議書は銀行や市町村役場などでもらえるものではなく、相続人が作成しなければなりません。
ここでは遺産分割協議書を作成する流れを解説します。
法定相続人を確定させる
遺産分割協議は、法定相続人全員で行わなければ無効となります。
そのため、まずは協議に参加する法定相続人を確定させましょう。
法定相続人とは、民法で定められた被相続人の財産を相続できる人です。
配偶者と血族、認知した子どもが法定相続人に該当しますが、内縁の配偶者や事実上の子どもは該当せず、協議に参加できません。
なお、被相続人に子どもがいなければ、被相続人の両親や祖父母の戸籍が必要なケースもあり、調査に時間がかかる可能性があります。
まずは被相続人の戸籍謄本などを取り寄せて、法定相続人の生存を正しく確認しましょう。
法定相続人について詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
被相続人の遺産を調査する
遺産分割協議書には不動産や預貯金、有価証券、債務など被相続人が所有していた財産をすべて明記する必要があります。
被相続人の通帳やスマートフォンを調べるほか、取り引きがあった保険会社、金融機関などに問い合わせましょう。
不動産は、市区町村で管理されている名寄帳を取得して調査します。
遺産分割協議を行う
法定相続人と被相続人の遺産が明らかになったら、遺産分割協議を行います。
協議の方法は決まっていないので、全員が同じ場所に集まるのが難しければ電話や郵送、チャットツールでの話し合いも可能です。
遺産分割協議では、相続の法定割合にかかわらず自由に遺産分割ができます。
協議内容に全員が合意できるよう、慎重に話し合いましょう。
遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議で法定相続人全員が合意した内容を、遺産分割協議書にまとめます。
内容に不備があったり不明確だったりすると無効となる場合があるため、正確に作成しましょう。
完成した遺産分割協議書に法定相続人全員の署名押印をし、全員分の印鑑証明書と共にそれぞれが所持します。
また、被相続人の財産に債務がある場合、誰が債務を相続するかは債権者の合意が必要となり、法定相続人の話し合いだけでは決められない点に注意しましょう。
【ひな形つき】遺産分割協議書を自分で作成する方法と作成時のポイント
遺産分割協議書の書き方に特別な決まりはありませんが、ここで紹介する5つの内容は必ず記載しましょう。
遺産分割協議書に記載する内容
作成の日付
遺産分割協議を行い、協議書を作成した日付を記載します。
相続人を明確にする
被相続人の戸籍謄本などで明確にした法定相続人全員の名前と住所を記載し、実印を押印します。
法定相続人の名前や実印が一人でも不足すると、遺産分割協議は無効となるので、必ず全員の署名押印が必要です。
被相続人の情報を記載する
被相続人の死亡日・氏名・最後の住所地も記載します。
被相続人が生まれた土地や本籍地ではなく、最後の住所地である点に注意しましょう。
誰がどの財産を相続するのかを明記する
協議の結果、各自が取得する相続財産の具体的な内容を明記します。
不動産は認識している所在地と実際の登記とは異なる場合があるため、登記簿謄本を参考に正確に記入しましょう。
不備があると遺産分割協議書を作成し直さなくてはならず、再度法定相続人全員の署名押印が必要となります。
一方、預貯金は詳細に明記しすぎると当該財産と認められないケースがあるため、注意が必要です。
たとえば、預金の残高を記載すると利子によって金額が変わってしまい、当該財産と認められない可能性があります。
遺産分割後に遺産が見つかった場合の取り扱いを明確にする
遺産分割協議後に新たな遺産が見つかった場合に備え、合意内容を明確にする必要があります。
具体的には、下記のいずれか一つを明記しておくとよいでしょう。
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新たな遺産の取り扱いについて法定相続人全員の合意がない状態で、新たな遺産が見つかった場合、誰かが「全遺産を再分割したい」と考えればトラブルにつながる恐れがあります。
親族間の争いを避けるために、合意内容を明確にしておきましょう。
ただし、新たに見つかった遺産が非常に重要な遺産で、全遺産をもって遺産分割協議をやり直したほうが公平だと考えられる場合には、当初の遺産分割協議は無効になる可能性があります。
作成時のポイント
手書き・パソコンのどちらで作成してもOK
遺産分割協議書の書き方に特別な決まりはなく、手書き・パソコンのどちらで作成するかは自由です。
最近はパソコンで作成された遺産分割協議書が一般的ですが、作成しやすいほうを選びましょう。
書字方向についても、先ほど遺産分割協議書に記載する内容で紹介した5つの内容が記載されていれば、縦横どちらでも問題ありません。
一から作成するのが難しい場合は、遺産分割協議書のひな形をもとに作成するとよいでしょう。
相続人全員が実印で署名押印する
遺産分割協議には法定相続人全員が実印で署名押印し、それぞれの印鑑登録証明書も添付しましょう。
実印とは、お住まいの市区町村に登録した印鑑です。
印鑑登録がない場合は、あらかじめ印鑑をお住まいの市区町村役場で登録し、市区町村に印鑑登録書(印鑑登録カード)を交付してもらう必要があります。
印鑑登録されると、印鑑登録書またはマイナンバーカードと身分証明書があれば、市区町村役場やコンビニで印鑑登録証明書が取得可能です。
複数ページに及ぶ場合は契印する
遺産分割協議書が複数ページに及ぶ場合は、相続人全員の契印が必要です。
契印とはページとページの間に半分ずつまたがる押印で、署名押印に使用した実印でなければなりません。
複数ページになる場合、差し替えて内容を変更されるリスクが発生するため、契印をして文書の信用性を維持します。
相続人の人数分を準備して各自で所持する
遺産分割協議書は相続人の人数分を準備し、全員が署名押印をして印鑑登録証明書とともに各自で所持しましょう。
遺産分割協議書は1通のみでも問題ないとされているものの、トラブルを防ぐためにも各自で所持するほうが安心です。
相続に遺産分割協議書が必要なのはどんなとき?
遺産分割協議書は、どのような場合に必要なのでしょうか。
遺言書がなく、複数の相続人が法定相続分とは異なる遺産分割を行う場合
被相続人が遺言書を残しておらず、複数の相続人がそれぞれの法定相続分とは異なる遺産分割を希望する場合には、遺産分割協議書が必要です。
話し合いだけでは、後から「こんなはずではなかった」「言った、言わない」などのトラブルにつながりかねません。
相続人同士のトラブルを防ぐためにも、合意した内容を遺産分割協議書に明記しましょう。
一方、遺言書がなくても、法定相続分の割合で遺産分割する場合は遺産分割協議書は不要です。
相続税申告や相続登記等の手続きが必要な場合
遺産分割協議書は、相続税申告や相続登記(不動産の名義変更)などの相続手続きにも必要です。
相続税の申告では、相続税を軽減する特例を活用できるケースがあります。
その際に、遺言書がなければ遺産分割協議書の提出が必要です。
また、不動産の登記名義を被相続人から相続人へ変更する場合にも、遺言書がなければ遺産分割協議書を提出しなければなりません。
ただし、不動産を法定相続分で共有取得する場合は、協議書がなくても登記可能です。
遺言書に記載がない遺産が発覚した場合
遺言書に記載がない遺産が発覚した場合は、遺産分割協議書が必要です。
基本的に遺言書がある場合は遺言に沿って相続手続きを行いますが、遺言書に記載がない財産は、遺言書がないものとして相続手続きをします。
法定相続人の確定後に全員で話し合い、協議の結果を遺産分割協議書に明記しましょう。
相続トラブルを防ぎたい場合
相続トラブルを防ぎたい場合も、遺産分割協議書は有効です。
協議書の作成義務はありませんが、相続人同士の話し合いだけでは、後から「気が変わった」と言う相続人が出てくるかもしれません。
親族関係を良好に保つために、話し合いの内容に相続人全員が合意した証明として遺産分割協議書を作成しておくと、後々のトラブルを回避できます。
こんなときは遺産分割協議書は不要!
相続人が一人だけの場合
そもそも相続人が一人だけの場合は、その人がすべての遺産を相続するため、遺言書がなくても遺産分割協議書は不要です。
たとえば、被相続人の配偶者がすでに亡くなっており子どもが一人っ子だった場合や、2人の相続人のうち1人が相続放棄した結果、相続人が1人になるケースなどが該当します。
相続する遺産が現金・預金だけの場合
相続する遺産に不動産などが含まれず、現金・預金だけの場合も、遺産分割協議書は不要です。
ほとんどの金融機関のホームページには、相続手続きの必要書類として「遺産分割協議書」が含まれていますが、被相続人の預金口座は遺産分割協議書がなくても解約できます。
ただし、相続人全員の署名押印が必要です。
被相続人が多数の預金口座を開設していた場合などは、遺産分割協議書を作成したほうがスムーズに解約できるでしょう。
遺言書の内容に沿って遺産分割する場合
被相続人が残した法的に有効な遺言書の内容に沿って遺産分割する場合も、遺産分割協議書は必要ありません。
ただし、遺言通りに遺産分割しない場合や、法的に無効な遺言書で法定相続分とは異なる遺産分割を行う場合には、相続人同士で話し合い、遺産分割協議書が必要です。
法定相続分の割合で遺産分割する場合
法定相続分の割合で遺産分割するなら、遺言書がなくても遺産分割協議書は不要です。
法定相続分とは、民法で決められた遺産相続の目安を言います。
たとえば、被相続人に配偶者と子ども3人がいる場合、配偶者が2分の1、子どもは2分の1を均等に分けるため、それぞれ6分の1が相続分と決められています。
遺産分割協議書は相続のどんな場面で活用する?
完成した遺産分割協議書を活用して行う相続手続きについて、具体的に説明します。
相続税の申告
税務署で相続税を申告する際に、小規模宅地の特例や配偶者の税額軽減など、相続税を軽減する特例を活用できるケースがあります。
小規模宅地の特例は、被相続人が住居として使っていた不動産を相続する場合に、土地の相続税評価額を最大で80%減額できる特例です。
一方、配偶者の税額軽減は、被相続人が亡くなった後の配偶者の生活保障や配慮を目的とした規定で、相続税額を減額できます。
遺言書がない場合、これらの特例を利用するには遺産分割協議書が必要です。
相続税の申告について詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
相続登記(不動産の名義変更)
不動産を相続する場合、法務局で被相続人の名義から相続人に名義変更をしなければならず、その際に遺産分割協議書が必要です。
その他、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や被相続人の住民票の除票、不動産取得者の住民票、印鑑証明書なども準備しましょう。
相続登記について詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
銀行預金の名義変更・解約払戻し
銀行預金の名義変更・解約払い戻しを行う際にも、遺産分割協議書があるとスムーズです。
預金口座は遺産分割協議書がなくても解約できますが、相続人全員の署名押印が必要なため、準備しておくほうがよいでしょう。
銀行預金の名義変更・解約払い戻しに必要な書類は金融機関によって異なるので、各金融機関に問い合わせて手続きを進めます。
株式の名義変更
株式の名義変更を行う際にも、遺産分割協議書を活用します。
証券会社ごとに名義変更に必要な書類が異なるため、証券会社の担当者に問い合わせたうえで手続きを進めましょう。
車の名義変更
車の名義変更は、管轄する「運輸支局」で行います。
遺産分割協議書や自動車検査証、車庫証明書、自動車の相続人の印鑑証明書など必要書類を集めて名義変更を申請しましょう。
なお、車の査定額が100万円以下なら、遺産分割協議書の代わりとして「遺産分割協議成立申立書」があれば手続き可能です。
遺産分割協議書は公正証書にするのがおすすめ!
遺産分割協議書は自分で作成できますが、その場合は私文書扱いとなります。
私文書の効力に不安がある方は、公証役場で遺産分割協議書を公正証書にするとよいでしょう。
ここでは、遺産分割協議書を公正証書にするメリットや費用などを解説します。
遺産分割協議書を公正証書にするメリット
トラブルを回避できる
遺産分割協議書を公正証書にすると、後々のトラブルを回避できます。
公正証書とは、契約成立や協議内容など一定の事項について、公務員である公証人がその権限に基づいて作成し、 内容を証明する公文書です。
公文書は反証のない限り完全な証拠力を有し、自分で作成する遺産分割協議書よりも後々トラブルになる可能性が小さくなります。
親族間のトラブルを回避したい方は、遺産分割協議公正証書にするのがおすすめです。
引用:公証事務
相続手続きがスムーズに進む
公証人がその権限に基づいて作成する遺産分割協議公正証書は、自分で作成した遺留分割協議書よりも信頼性が高まります。
そのため、相続税申告や相続登記などの相続手続きをスムーズに進めやすくなります。
紛失しない
遺産分割協議公正証書の原本は公証役場にて20年間保管されるので、紛失の心配がありません。
自宅で保管するのが不安な方は、公正証書にすることをおすすめします。
公正証書にするために必要な書類
公正証書にするために必要な書類は、下記の通りです。
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これらの書類を準備し、公証役場の予約をとるか弁護士に依頼します。
公正証書にするための費用
公正証書にする際には、公証人に手数料を支払います。
公証人手数料は遺産を受け取る相続人または受遺者の人数により異なりますが、基準は下記の通りです。
遺産の金額 | 公証人手数料 |
100万円まで | 5,000円 |
100~200万円まで | 7,000円 |
200~500万円まで | 1万1,000円 |
500~1,000万円まで | 1万7,000円 |
1,000~3,000万円まで | 2万3,000円 |
3,000~5,000万円まで | 2万9,000円 |
5,000万~1億円まで | 4万3,000円 |
1~3億円まで | 4万3,000円に5,000万円ごとに1万3,000円を加算 |
3~10億円まで | 9万5,000円に5,000万円ごとに1万1,000円を加算 |
10億円~ | 24万9,000円に5,000万円ごとに8,000円を加算 |
こんな人には特におすすめ!
公正の効力が生じる公正証書が特におすすめな方は、下記の通りです。
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先述の通り、遺産分割協議書を公正証書にするには費用がかかります。
自分で作成するか迷う方もいるかもしれませんが、費用がかかっても相続手続きに手間取る可能性を排除し、安心したい方におすすめと言えるでしょう。
遺産分割協議書に関する疑問やご相談は林商会にお任せください!
相続税の申告や相続登記に必要な遺産分割協議書は、自分で作成することが可能です。
しかし、内容に不備があると無効になって手続きが滞ってしまう可能性があるため、専門家に相談や依頼することをおすすめします。
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まとめ
遺産分割協議書とは、被相続人の財産を誰がどのように相続するのかを法定相続人全員で話し合い、合意した内容を記した書面です。
相続に必要な書面ではありませんが、遺言書がなく複数の相続人が法定相続分とは異なる遺産分割を行う場合や、遺言書に記載されていない遺産が発覚した場合などに必要となります。
作成する際には必ず記載内容を確認し、法定相続人全員が実印で署名押印しなければなりません。
もしも遺産分割協議書の効力に不安がある場合は、遺産分割協議公正証書にするとよいでしょう。