自宅に保管しているタンス預金も、相続税や贈与税の対象です。
「金融機関に預けていないし、税務署にバレないのでは?」と隠したままで申告を怠ると、脱税行為とみなされて懲役・罰金などの刑事罰が科されます。
この記事では、タンス預金が税務署にバレる理由やお尋ねが入りやすいケースについて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
【はじめに】タンス預金の定義を再確認しよう
銀行などの金融機関に預けずに、家の中で保管しているまとまった金額の現金を「タンス預金」と言います。
現金を保管する場所はタンスに限らず、整理棚や屋根裏、貸金庫、冷蔵庫、仏壇などに隠してあっても「タンス預金」と呼ばれます。
また、現金以外に貴金属、電子マネー、暗号通貨もタンス預金に含まれる点には注意が必要です。
さらに、もしものときに備えたタンス預金にも、金融機関に預けているお金と同様に相続税や贈与税が課せられます。
タンス預金で相続税対策はできない!税務署にバレる5つの理由
家族が亡くなり、まとまった金額のタンス預金が見つかった場合、「相続財産に含めずこっそりもらってしまってもバレないのでは?」と考えてしまうかもしれません。
しかし、残念ながらタンス預金は税務署にバレる確率が極めて高く、隠し通すことは難しいでしょう。
預けた記録もないお金がどうして税務署にバレてしまうのか、詳しく解説していきます。
①KSK(国税総合管理システム)で一元管理している
KSK(国税総合管理システム)とは、国税庁と全国の国税局や税務署を結び、納税者の収入や財産、申告に関するすべての情報を一元管理するシステムです。
このシステムは源泉徴収票や確定申告を元にしており、納税者の過去の税金の申告状況や納税情報なども管理しています。
そのため、KSK内のデータと実際に申告された財産や税金の金額が大きく異なる場合には、脱税の可能性を疑われることになるのです。
②預貯金を過去10年分さかのぼって調査される
税務署は、預貯金の取引について過去10年分を調査します。
使途がわからない多額の出金や給与以外の高額の振り込みにより、タンス預金がバレることもあります。
税務署は本人の承諾不要で預貯金の調査を行うことができるため、本人が忘れていたり家族が知らなかったりする場合でも、疑わしいお金の動きを見逃すことはありません。
③被相続人だけでなく家族の口座もチェックされる
税務署による税務調査では、銀行や証券会社の出入金を詳しく調べられますが、その対象は被相続人だけではありません。
被相続人の家族の口座もチェックされるため、怪しい入出金の動きがあれば詳しく調査が入ります。
「タンス預金を事前に家族の口座に預けておけばバレないのでは?」と思っていても、税務調査で見つかってしまうでしょう。
④ヒアリング・実地調査・反面調査がある
タンス預金が疑われると税務調査が徹底的に行われます。
税務調査では、金融機関にあるお金や入出金の記録以外にもさまざまな情報をもとに調べ上げられ、タンス預金が見抜かれるのです。
ヒアリング
タンス預金をあぶり出すため、被相続人の財産や生い立ち、経歴、趣味などの話を聞いて、疑わしい点を見つけます。
相続人の職業や収入について質問されますが、税金とは全く関係のない話もします。
まるで世間話のようなヒアリングでの何気ない会話から、税務調査官はさまざまな情報を収集するのです。
実地調査
税務調査官による実地調査では、自宅にある金庫や銀行の貸金庫、通帳、印鑑などが調べられます。
被相続人のものだけでなく相続人のものも調査されますが、タンス預金を見つけることだけが目的ではありません。
調査した場所に財産がないのを確認することで、別のところに財産が隠されている可能性を見つけるのも実地調査の目的です。
反面調査
ヒアリングや実地調査で明確な情報が得られなければ、反面調査に進みます。
反面調査は、家族や親戚以外の被相続人と親しかった人や関係のあった人と接触して情報を得る調査方法です。
⑤海外資産・海外送金も調査される
海外資産や海外への送金も、税務署では抜かりなく調査が行われます。
国際送金は、100万円を超えた場合に金融機関から税務署への届出が必要です。
金融機関から税務署長に提出される「国外送金等調書」には、送金の金額や受け取り人、送金目的など細かな項目があり、徹底的に調査されます。
タンス預金は相続税・贈与税の対象で申告が必要
家の中などのプライベートな場所に保管しているタンス預金にも相続税や贈与税が課税されます。
タンス預金が被相続人のものなら相続税がかかる
被相続人がタンス預金をしていた場合、その他の財産も含めた遺産総額が基礎控除を上回る場合は、相続税を収める必要があります。
被相続人が亡くなって役所に死亡届が出されると、税務署に通知されるため、タンス預金の存在を隠し通すことは不可能です。
税務署では被相続人のおおよその資産を把握しているため、相続税の申告があるはずなのになかったり相続財産の申告額が少なすぎたりすれば、税務調査が入ります。
贈与されたタンス預金には贈与税がかかる
タンス預金を贈与された場合は、通常の贈与と同様に贈与税がかかります。
タンス預金は預金口座から引き出す訳ではないので、お金の動きが記録に残ることはありません。
また、持ち主が誰なのかがわかりにくいため、贈与税の申告をしなくても問題にならないケースもあります。
しかし、数百万〜数千万円といった多額の資産を贈与された場合は、税務署から指摘を受ける可能性が高いのが現状です。
貴金属や高級外車など高額なものを購入したり、口座に入金したりといったお金の流れから、贈与を受けたことが発覚するため、隠し通すことは難しいでしょう。
相続税・贈与税には時効がある
相続税や贈与税の申告には期限があり、それを過ぎるとペナルティが発生します。
しかし、一定の期間を過ぎると時効が成立して、相続税や贈与税を収める義務が免除されます。
時効には「善意の時効」と「悪意の時効」の2つのパターンがあり、相続税や贈与税の場合も同様にそれぞれ時効までの期間が決まっています。
善意の時効 |
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悪意の時効 |
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相続税の時効
相続税は、相続の発生を知った日の翌日から10か月以内に申告・納税をする義務があります。
相続税の時効は、その期限を1日目としてカウントされます。
善意の時効 | 5年 |
悪意の時効 | 7年 |
タンス預金で相続税を免れようと考えた場合、相続が発生してから約7年間、税務署にバレないように気を使い続ける必要があるのです。
贈与税の時効
贈与税の申告期限は、贈与があった翌年の2月1日から3月15日までの間です。
時効の年数は、申告期限の翌日である贈与の翌年の3月16日からカウントされます。
善意の時効 | 6年 |
悪意の時効 | 7年 |
タンス預金を贈与され、そのままタンス預金にすればバレないと思うかもしれませんが、大きな財産が動いて納税がなければ税務調査が入るため、隠し通すのは難しいでしょう。
【注意】無申告の場合は重いペナルティが課せられる!
タンス預金で相続税や贈与税を免れようと申告しないでいると、税務署に知られた際に重いペナルティが課せられます。
無申告加算税
正当な理由がないにも関わらず、申告期限までに申告をしなかった場合、無申告加算税が課せられます。
課税対象 | 税率 |
税務調査前に自主申告した場合 | 5% |
納税額のうち50万円まで | 15% |
納税額のうち50万円を超える分 | 20% |
過少申告加算税
申告をした相続税や贈与税が、払うべき金額よりも少なかったときに発生するのが過少申告加算税です。
課税対象 | 税率 |
追納する税金のうち50万円まで | 10% |
追納する税金のうち期限内申告税額または50万円のいずれか多い金額を超える分 | 15% |
税務署からの税務調査の通知が届く前に申告をした際には、課税されません。
延滞税
納税の期限を超過した場合に課せられるのが延滞税です。
課税対象 | 税率 |
納税期限の翌日から2か月以内 | 2.4%/年 |
納税期限の翌日から2か月を超えた日以降 | 8.7%/年 |
※令和4年の場合
延滞が始まった日から完納するまでの日数に応じて計算した金額を、納付しなければなりません。
重加算税
タンス預金などで財産を隠し、相続税や贈与税を申告しなかった場合など悪質なケースでは重加算税の支払いが命じられます。
先述の無申告加算税や過少申告加算税の代わりに課せられる付帯税で、ペナルティの中では最も重い加算税です。
税率 | |
過少申告加算税の代わり | 35% |
無申告加算税の代わり | 40% |
刑事罰
偽りの申告をしたり無申告によって脱税をしたりした場合、悪質なときや金額が大きい場合には、逮捕されて刑事罰を受けることになります。
相続税法違反で科せられる刑事罰は、基本的に「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金」です。
税務署からタンス預金を疑われてお尋ねが入りやすいケース
相続税の無申告や過少申告の可能性があると税務署が判断すると、本人の元に「お尋ね」と呼ばれる通知が届きます。
お尋ねが届いても相続税の申告がない、申告額が正しく修正されない、といった場合には税務署による税務調査が入ります。
税務署が把握する相続財産と申告した財産に大きな差がある
税務署は、KSK(国税総合管理システム)によって国民の財産の大まかな金額を把握しています。
そのため、相続財産がどれくらいになるのかもわかっており、税務署で把握している金額よりも大幅に少ない金額が申告されると、脱税を疑われてしまうのです。
預貯金から多額の出金がある
被相続人の預貯金から多額のお金が引き出されている場合も、お尋ねが入る可能性があります。
葬儀などでお金を使ったことがわかれば問題ありませんが、引き出したお金がどこへ行ったのかがわからないときには、タンス預金の可能性があると判断されるかもしれません。
相続税の申告書にミスが多い
相続税の申告書は個人で行うのは難しいため、税理士に依頼するケースが一般的です。
そのため、ミスが多い申告書は税理士ではなく個人で作成している可能性が高いと捉えられます。
もちろん相続税の申告書は個人で作成しても問題ありませんが、ミスが多いと「人には知られたくない隠し事があるのではないか」と疑われてしまいかねません。
相続税の申告書は頻繁に作成するものではないため、ミスなく作成するのは容易ではありません。
タンス預金の有無に関わらず、相続税の申告書は専門家に作成をお願いする方が安心でしょう。
注意!100万円以上はタンス預金の疑いがかかる
税務署は、10年前までさかのぼって金融機関の入出金記録を調べることができます。
その中でタンス預金を疑うポイントとなるのが、100万円以上の出金です。
以下のように、使い道を説明できるように記録しておきましょう。
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タンス預金のメリットとデメリット
低金利時代の今、手元にお金を持っておく安心感をメリットと捉え、金融機関に預けずタンス預金を選ぶ人は少なくありません。
そんなタンス預金に、デメリットはないのでしょうか?
ここからは、タンス預金のメリットとデメリットについて見ていきましょう。
タンス預金の6つのメリット
タンス預金には主に6つのメリットがあります。
使いたいときに取り出して使える
お金が必要なとき、本来なら引き出しのために金融機関やATMに出かけなければならないところ、すぐ現金を用意できるのはとても便利です。
引き出すために必要なATM手数料や出かける時間が不要なのは大きなメリットでしょう。
相続発生後に銀行口座が凍結されても支払いに困らない
被相続人が亡くなると銀行口座は凍結され、解除手続きが完了した時点でお金を引き出せるようになります。
遺産が手元に入るまで時間がかかるため、差し当たっての生活費が足りなくなったり、葬儀費用を支払えなかったりなど、支払いに困る事態になりかねません。
その点、タンス預金があれば、すぐに使うことができるので安心です。
銀行が破綻しても資産を守れる
銀行が破綻した場合、預金保証制度によって1,000万円を超える預金は保証されないことが定められています。
今は銀行に預けておけば絶対に安心と言える時代ではなく、大手の銀行でも今後ずっと破綻しないとは限りません。
自分の資産を守るため、リスクヘッジとしてタンス預金を活用する人が増えているのです。
税金がかからない
金融機関に預けているお金には、利子が発生します。
利子に対しては、所得税15%・復興特別所得税0.315%・地方税5%が課税されます。
タンス預金の場合は利子がつかないため、税金もかかりません。
マイナンバーに紐づかないため国に資産を把握されない
金融機関に預けたり不動産を購入したりといった場合、税務署による資産総額の把握が可能です。
また、近年は金融機関の預金口座へのマイナンバーの登録も進んでいるため、お金の流れが容易に国に伝わる状態になっています。
タンス預金はマイナンバーに紐づかない資産なので、資産総額が知られることはありません。
家族にバレずに貯蓄できる
預金や投資なども家族に知られずに行うことはできますが、調べようと思えば簡単に貯蓄バレてしまいます。
隠す場所さえ確保できれば、家族に知られず貯蓄したい場合には、タンス預金がもっとも有効な方法だと言えるでしょう。
タンス預金の6つのデメリット
たくさんのメリットがあるタンス預金ですが、その一方でデメリットもあります。
知っておきたいタンス預金の6つのデメリットについてご紹介していきます。
利子がつかない
今は低金利とはいえ、銀行にお金を預けると利子がつきます。
金利の良い銀行を選んで預ければお金が増える可能性があるのに対して、タンス預金は現金を手元で保管するので、利子がついてお金が増えることはありません。
インフレが起きたら価値が下がる
物の値段が上がってお金の価値が下がる「インフレ」が起きると、タンス預金の実質的な価値が下がってしまいます。
日本政府は物価上昇率(インフレ率)2%を目標としていますが、その目標通りに物価が上がっていくと、タンス預金はどんどん目減りしていくでしょう。
たとえば、1,000万円のタンス預金が、10年後には820万円の価値になってしまいかねないのです。
旧通貨が廃止されると価値が無くなる
長くタンス預金として現金を溜め込んでいると、通貨の切り替えによって古い紙幣や硬貨が無効になってしまう可能性が出てきます。
相続が発生した際には、家の中に知らないタンス預金が眠っていないか、早めに調べましょう。
災害や盗難のリスクが高い
金融機関に預けているお金に比べると、タンス預金はとても無防備で、火事や自然災害、空き巣、強盗などのリスクが高いと言えます。
銀行に預けていれば、通帳やキャッシュカードが無くなったとしても引き出す方法はありますが、タンス預金が消えて無くなってしまうと、取り戻すことは難しいでしょう。
相続トラブルの原因になりやすい
相続人全員がタンス預金の存在を知らず後から発見された場合、遺産分割協議をやり直す必要があります。
発見した時期や金額などによっては、相続トラブルにつながる可能性があるでしょう。
なかには、タンス預金の存在を知っている一部の相続人が、勝手にお金を持ち出してしまうケースもあります。
タンス預金の存在は記録に残らず証拠もないため、タンス預金があると知らなかった相続人が損をしてしまい、トラブルに発展する事態になりかねません。
保管場所がわからなくなる可能性がある
タンス預金をして長い年月が経過すると、どこに保管したのかわからなくなってしまう可能性があります。
特に高齢になって忘れっぽくなったり認知症を患ったりすると、タンス預金の存在自体を忘れてしまうこともあるでしょう。
他の家族がタンス預金のことを知らないまま相続が発生してしまうと、税務調査が入ったりタンス預金ごと古い家屋を取り壊してしまったりといった事態になりかねません。
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「タンス預金は税務署にはバレないだろう」と考えがちですが、この記事でご紹介したように、税務署の徹底的な調査によって高確率でバレてしまいます。
また、タンス預金の相続税申告を怠っているとペナルティが課せられ、刑事罰を受ける事態にもなりかねません。
「亡くなった親のタンス預金が見つかったけれど、どのように対処したらよいかわからない」などの疑問や相続税のご相談は、相続の専門家に任せるのが安心です。
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まとめ
タンス預金は記録に残らない預金ですが、相続税対策に活用するのはおすすめできません。
その場では節税できたとしても、税務署にバレた際には多額の罰金が課せられてしまうため、正しく納税するよりも損をしてしまいます。
タンス預金をするのであれば、もしもの場合に備えて数十万円程度にとどめておくのがよいでしょう。