分割相続とは、複数の相続人が遺産を分割して相続することを言います。
鎌倉時代に主流となった制度ですが、室町時代に一人の相続人の単独相続制度へと移行したことをご存じでしょうか?
この記事では、遺産分割の方法や流れのほか、スムーズに遺産分割を行うための事前対策なども解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
遺産分割には4つの方法がある
まずは、4つの遺産分割方法をそれぞれご紹介します。
①現物分割
現物分割とは不動産は配偶者、預金は長男、有価証券は長女など、遺産の性質を変えずそのままの形で分割する方法です。
手続きが簡単でわかりやすい一方、法定相続分の通りに分割しづらく、調整しなければトラブルにつながる可能性があります。
そのため、特定の相続人に遺産を集中させることに他の相続人が納得している場合や、遺産の中に現金の資産があって調整できる場合におすすめです。
②換価分割
換価分割とは、現金以外の遺産をすべて売却し、金銭に換えたうえで分割する方法です。
法定相続分の通りに分割できますが、所得税や住民税の支払いによって遺産が減る可能性があります。
現物分割が難しい場合や、法定相続分の通りに分割したい場合におすすめですが、被相続人の不動産を残したい場合には不向きと言えます。
③代償分割
代償分割とは、不動産など分割しづらい遺産をもらった相続人が、他の相続人に対し自身の財産を金銭で渡す方法です。
たとえば、3千万円の土地と建物を相続した長男が、長女と次男に1千万ずつ渡すなど、特定の遺産の相続人が他の相続人に現金を渡します。
不動産を残したい場合におすすめですが、相続人は代償金を支払う必要があるため、充分な資力がなければ代償分割はできません。
④共有分割
共有分割は、不動産や有価証券などの各遺産を、相続人の間で共有する分割方法です。
公平感はありますが、共有分割をすると共有者が死亡した場合に新たな相続人の名義が加わり、将来的な売却の際に手続きが複雑になります。
いったん共有分割をしても、後から共有解消を目指すケースが少なくないので、あまりおすすめとは言えません。
遺産分割の流れ
続いて、遺産分割の流れをご紹介します。
【ステップ①】遺言書の有無を確認する
まずは遺言書の有無を確認しましょう。
遺言書があれば、原則として遺言に沿って相続が行われます。
遺言書がない場合や、遺言書はあっても法律の規定に従って作成されておらず、法定相続分と異なる遺産分割を希望する場合は、法定相続人全員で遺産分割の方法を話し合わなければなりません。
【ステップ②】相続財産の確認をする
次に預貯金や不動産、有価証券、債務など、すべての相続財産を確認します。
被相続人の通帳やスマートフォンを調べるほか、取り引きがあった保険会社、金融機関などに問い合わせましょう。
遺産分割の方法によっては、不動産を金銭に換算する作業が発生する場合もあります。
なお、遺言書に書かれていない相続財産が見つかる可能性もあるので、遺言書の有無にかかわらず相続財産の確認をしましょう。
【ステップ③】法定相続人を確認する
遺言書がなく法定相続人全員で遺産分割の方法を話し合う場合、被相続人の戸籍謄本などを取り寄せて法定相続人を確認しなければなりません。
法定相続人とは
法定相続人とは民法で定められた被相続人の財産を相続できる人であり、被相続人の配偶者と血族です。
配偶者は必ず相続人になりますが、正式な婚姻関係が必要となり、内縁関係や事実婚では法定相続人に該当しません。
また、血族には以下のように相続順位が定められています。
|
法定相続人について詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
法定相続人に未成年者が含まれる場合
未成年者は遺産分割協議に参加できません。
そのため、未成年者の親権者が法定代理人となって協議に参加しますが、親権者も法定相続人の場合は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行い特別代理人を選任します。
特別代理人の選任に必要な書類は、下記の通りです。
|
法定相続人に兄弟姉妹が含まれる場合に注意すること
法定相続人に被相続人の兄弟姉妹が含まれる際の主な注意点は、下記の通りです。
|
法定相続人に兄弟姉妹が含まれる場合、子や親が法定相続人になる場合と規定が異なるため、混同しないように注意しましょう。
もし兄弟姉妹が亡くなっている場合には、代襲相続人の甥や姪の戸籍謄本も調べる必要があるため、戸籍謄本の量が膨大になり収集に時間がかかることがあります。
被相続人の財産維持に貢献した人がいる場合の遺産分割
相続開始までに被相続人の財産維持に貢献した相続人には、貢献度に応じて寄与分が認められます。
寄与分が認められる行為は、下記の通りです。
|
さらに、寄与分が認められるための条件もあります。
|
一部の法定相続人が生前贈与や遺贈を受けていた場合
一部の法定相続人が生前贈与や遺贈を受けていた場合、不公平感をなくすために特別受益が適応されます。
特別受益の主な対象は、下記の通りです。
|
遺産に土地・不動産や株式が含まれている場合
遺産に土地・不動産や株式など分割しづらい財産が含まれている場合、法定相続人全員で遺産をどのように分割するか話し合わなければなりません。
遺産分割には、現金以外の遺産をすべて金銭に換えたうえで分割する換価分割や、特定の遺産の相続人が他の相続人に代償金を支払う代償分割、複数の相続人で共有する共有分割があります。
後からトラブルにならないよう、全員が合意できる分割方法を選びましょう。
一方、遺産が金銭のみで法定相続分の通りに分ける場合は、比較的容易に分割できます。
【ステップ④】遺産分割協議を行う
法定相続人が確定したら、全員で遺産分割協議を行います。
協議の方法は決まっておらず、必ずしも全員が同じ場所に集まる必要はありません。
電話やチャットツール、手紙などを使い、協議内容に全員が合意できるように話し合いましょう。
【ステップ⑤】遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議ですべての相続人が合意した内容を、遺産分割協議書にまとめます。
遺産分割協議書は相続税の申告や相続登記などの手続きの際に必要ですが、内容に不備があると手続きが滞ってしまうため、正確に作成する必要があります。
遺産分割協議書の作成方法や作成時のポイントを詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
遺産分割協議がまとまらない場合は調停を行う!
遺産分割協議がまとまらず親族で揉めている場合は、家庭裁判所へ調停を申し立てます。
調停の申し立てに必要な書類や費用は、下記の通りです。
必要書類
|
引用:裁判所
申し立てにかかる費用
|
弁護士に調停の依頼をした場合の費用
自身で調停を申し立てるのが難しい場合は、弁護士に調停を依頼する方法もあります。
弁護士に調停の依頼をした場合の大まかな費用は、下記の通りです。
|
費用はかかりますが、相続人同士の関係が悪化する前に弁護士に依頼するほうがよいでしょう。
必読!遺産分割をスムーズに進めるためにできること
ここでは、遺産分割をスムーズに進めるポイントを3つご紹介します。
相続の割合や財産の取り扱いを決めて遺言書を作成する
遺産分割をスムーズに進めるために、あらかじめ相続の割合や財産の取り扱いを決めて、法的に有効な遺言書を作成しておきましょう。
法的に有効な遺言書があれば、原則として遺言の内容が優先されます。
被相続人の意思が尊重されるのはもちろん、相続人同士のトラブルを回避できるでしょう。
他にも、遺言書を作成しておくと、相続財産の調査や遺産分割の負担を軽減できます。
たとえ相続財産が少なくても、遺言書がないと相続トラブルにつながる恐れがあるため、相続財産の総額に関係なく、生前に相続の割合や財産の取り扱いを決めて遺言書を作成しましょう。
日頃から相続人同士のコミュニケーションを密に行う
相続人同士の日頃のコミュニケーションも、遺産分割をスムーズに進めるポイントです。
コミュニケーションが不足しているとお互いに気持ちをうまく伝えられず、言い争いの原因になりかねません。
日頃から、相続に向けて円滑なコミュニケーションを意識しましょう。
なお、遺産分割協議に限らず、話し合いをするときは録音や文書で内容を残しておくと、「言った、言わない」のトラブルを避けられます。
遺産分割協議では相手の立場や気持ちに配慮する
遺産分割協議では自分の主張ばかりせず、相手の立場や気持ちに配慮しましょう。
スムーズに遺産分割を進めるには、相手の気持ちを考えて落ち着いて話し合う必要があります。
万が一、相手が無理な主張をしてきたとしても、感情的に言い返さず冷静に話しましょう。
たとえ正しい主張をしたとしても、感情的に言い返したりきつい言葉遣いをしたりすると、相手に受け入れられない可能性があります。
相手の立場や気持ちに配慮し、お互い落ち着いて話し合えばスムーズな遺産分割につながります。
【注意その①】遺産分割は相続税に大きく影響する!
続いて、遺産分割が相続税に与える影響や遺産分割協議をしないと適用されない制度を紹介します。
遺産分割を相続税の申告期限までに確定させないと相続税が高くなる
法律上は遺産分割協議の義務はなく、いつまでにしなければならないという期限もありません。
しかし遺産分割を相続税の申告期限までに確定させないと、相続税が高くなります。
税務上、遺産分割を確定させないと受けることができない相続税の軽減規定があるからです。
節税を考えるなら、相続税の申告期限である相続開始から10か月以内に遺産分割を確定させましょう。
遺産分割協議をしないと適用されない制度
遺産分割協議をしないと適用されない制度を、3つ紹介します。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により取得した遺産額が「1億6千万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い金額までは相続税がかからない制度です。
配偶者の税額の軽減は、配偶者が遺産分割や遺贈で実際に取得した財産をもとに計算されるため、遺産分割が完了していなければ適用されません。
引用:配偶者の税額の軽減
小規模宅地の評価減
小規模宅地などの評価減の特例とは、被相続人が住居用、事業用、賃貸住宅として使っていた土地を相続する場合に、さまざまな要件のもと相続税評価額を50~80%減額できる特例です。
相続財産が自宅しかない場合、相続税の支払いのために自宅を売却することになりかねません。
そこで、相続人が慣れ親しんだ自宅で生活を続けられるよう、特例措置が設けられています。
小規模宅地などの評価減の特例には厳格な要件があり、遺産分割の完了も要件の一つです。
その他の制度
その他、下記の制度も遺産分割が完了していなければ適用されません。
|
【注意その②】令和3年の民法改正で遺産分割のルールが変わった!
令和3年の民法改正(令和5年4月1日より施行)により、被相続人の死亡から10年を経過した後に行う遺産分割は、個々の具体的な調整要素を修正後の具体的相続分ではなく、原則として法定相続分または遺言による指定相続分とされました。
そのため、具体的な調整要素を修正後の具体的相続分によって遺産分割を行いたければ、相続開始時から10年以内に遺産分割を行う必要があります。
これまでは遺産分割に期限がなかったため、長期間放置されることにより権利関係が複雑になる、生前贈与や寄与分に関する書証が散逸するなど、遺産分割の支障となる恐れがありました。
令和3年の民法改正により、具体的相続分による分割を希望する相続人に早期の遺産分割協議を促す効果や、法定相続分を基準として円滑な遺産分割が可能になると考えられています。
出典:【遺産分割に関する民法改正の概要】
分割相続を正しく理解しておこう
分割相続と単独相続は異なる相続です。
ここでは、それぞれの違いを解説します。
分割相続について
分割相続とは、相続人が複数いる共同相続の場合に遺産を分割して相続する方法です。
相続が発生すると、法定相続人は原則として被相続人の不動産や預金などの財産はもちろん、債務もすべて引継ぎ、それぞれの法定相続分による共有状態となります。
しかし共有状態では、それぞれの相続人は自由に財産を処分・売却できません。
法定相続人全員で遺産分割協議を行なって共有状態の相続財産を分割し、相続人を決めることで、それぞれの相続人が自由に処分・売却できるようになります。
なお、法定相続人が一人の場合や遺言によってすべての財産の相続先が決まっている場合は、分割する必要はありません。
単独相続とは~分割相続との違いについて~
単独相続とは、一人の相続人がすべての財産を相続することです。
法定相続人が元々一人しかいない場合や、法定相続人の廃除や欠格、相続放棄などにより結果として単独相続になる場合などがあります。
相続人同士のトラブルが起こらず遺産の処分も自由なので、相続人が複数いる共同相続とは対照的と言えるでしょう。
【分割相続はいつから?】鎌倉時代に主流に!
分割相続は鎌倉時代に主流となりましたが、室町時代には嫡子のみがその家長の地位と財産を相続する「単独相続」の制度が確立します。
鎌倉時代初期は、農地開拓を進めるために多くの相続人に財産を分け与えるほうが効率的だと考えられていたため、分割相続が主流となっていきました。
しかし、後期になると土地は開発し尽くされてしまい、限られた土地の相続をめぐって相続人同士の争いが発生するようになりました。
そこで室町時代には、複数の相続人がいても一人だけがその家の財産を相続する「単独相続」の制度が主流となります。
単独相続は武家社会とともに江戸時代に引き継がれ、昭和の敗戦まで長く続きました。
分割相続に関する疑問や遺産分割のご相談は林商会にお任せください!
ここまで、遺産分割の流れや相続税に与える影響などについて解説してきました。
遺産分割の義務や期限はありませんが、相続税の申告期限までに行わなければ相続税が高くなってしまったり適用されない制度があったりするため、注意しましょう。
また、「遺産分割協議がまとまらない」などのトラブルや疑問は、専門家に任せると安心です。
相続のプロ集団である林商会には、弁護士・税理士・行政書士・司法書士・相続診断士など相続の専門家が在籍し、お悩みに寄り添ってスムーズな解決へと導きます。
まずは無料相談から、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
分割相続とは、複数の相続人が遺産を分割して相続する方法です。
一人の相続人がすべての財産を相続する単独相続とは、対照的な概念と言えます。
遺言書がなく遺産を分割する場合は、法定相続人を確定し、相手の立場や気持ちに配慮しながら話し合いを進めましょう。
なお、節税を考えるなら、相続税の申告期限である相続開始から10か月以内に遺産分割を確定させてください。