相続廃除したいと遺言書に書けば特定の相続人の相続権を奪える!?認められる要件や手続きについても解説します

相続 廃除 アイキャッチ

「大切な財産を相続させたくない人がいる場合は、どうしたらよいのか?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そのような場合の対応策が相続廃除ですが、誰でも廃除できるわけではありません。

この記事では、相続廃除が認められる要件や相続廃除の効果、具体的な手続き方法について解説します。

【はじめに】相続廃除の基礎知識

親に暴力をふるう女性-

相続廃除ってどんな制度?

相続廃除とは、被相続人の意思で特定の相続人の相続権を奪う制度です。

しかし、どのような理由でも認められるわけではなく、虐待重大な侮辱を受けたときなどに限定されます。

相続廃除を申し立てられるのは「被相続人」本人のみ

相続廃除は被相続人の意思に基づいて相続権を奪う制度のため、相続廃除を申し立てられるのは被相続人本人のみです。

ただし、遺言で相続廃除を行う場合は被相続者が亡くなってから手続きを行うため、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てをします。

相続廃除の対象は「遺留分を有する推定相続人」

相続廃除の対象は、被相続人の配偶者や直系卑属(子ども・孫など)、直系尊属(父母・祖父母など)といった「遺留分を有する推定相続人」のみです。

兄弟姉妹には遺留分がないため、相続廃除の対象にはなりません。

したがって、兄弟姉妹に相続させたくない場合は、その旨を遺言書に記しましょう。

相続廃除の3つの要件

相続廃除の要件は以下の3つです。

  1. 被相続人を虐待した
  2. 被相続人に重大な侮辱を与えた
  3. その他の著しい非行があった

具体的には、以下のような事例が該当します。

● 被相続人に激しい暴力をふるって虐待した
● 被相続人に日常的に暴言を吐いて侮辱した
● 被相続人の財産を不当に処分した
● 多額の借金を作り被相続人に返済させた
● 浪費、遊興、犯罪、反社会的団体への加入、異性問題を繰り返すなどの親不孝行為があった
● 重大な犯罪を起こし、有罪判決を受けている
● 愛人と同棲するなどの不貞行為を行なった配偶者
● 財産目当ての婚姻関係を結んだ

どんな場合に相続廃除をすべき?

遺留分を請求される可能性がある人(配偶者・子ども・両親)に相続させたくないときは、相続廃除をすることで遺留分を含む一切の相続権利を剥奪できます。

たとえ相続させない意思を遺言書に残しても、配偶者・子ども・両親が遺留分を請求して争いに発展しかねないため、相続廃除をしておくと安心です。

相続廃除するとどうなる?

戸籍等の証明書

相続廃除するとどのような効果があるのか、確認しておきましょう。

遺留分を含む相続の権利がなくなる

相続廃除すると遺留分を含む相続の権利を失います。

遺留分とは、一定の法定相続人が遺言でも奪えない最低限の財産を相続する権利です。

たとえば、遺言書に「長男に遺産をすべて渡す」と記されていても、長女や次男は遺留分を請求できます。

しかし、相続廃除すれば遺留分を含む相続の権利がなくなるため、何も相続できなくなるのです。

戸籍に記載される

家庭裁判所に相続廃除の申し立てを行なって審判で認められた場合、被相続人の戸籍地の役場に推定相続人廃除届を提出しましょう。

届出が完了すると、推定相続人の戸籍の身分事項欄に廃除された旨が記載されます。

相続廃除する際の注意点

代襲相続する孫

相続廃除を検討する際は、以下の注意点を確認しておきましょう。

代襲相続の対象になる

相続廃除は当人のみに適用されるため、相続廃除した推定相続人に子どもや孫がいれば代襲相続の対象になり、相続権は子どもや孫に引き継がれます。

「相続廃除した相続人の家族に遺産を相続させたくない」と思ったとしても、代襲相続人からも暴力や暴言による侮辱を受けた事実がなければ、代襲相続人を相続廃除することは認められません。

相続廃除しても他の人の遺産を相続する権利は奪えない

相続廃除は手続きを行なった被相続人と対象となる相続人の間のみで適用されるため、他の人の遺産を相続する権利は奪えません。

したがって、ご夫婦2人とも長男を相続廃除する場合は、それぞれ廃除の申し立てが必要です。

相続税の基礎控除額が減少する

「相続税の基礎控除」とは、相続する遺産が一定の金額以下であれば、相続税を納める義務がない=控除される制度のことです。

相続税の基礎控除額は、以下のような計算式で割り出すことができます。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

相続廃除すると法定相続人が1人減るため、相続税の基礎控除額は600万円減少します。

相続税の基礎控除について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

相続税の基礎控除についてはこちら

相続廃除が認められる確率はわずか20%程度!

相続廃除の申し立てが認められる確率は高くありません。

平成29年度に全家庭裁判所が受理した「推定相続人の廃除及びその取消し」審判の総数は328件でした。

年度内に結果が出た申し立てのうち、認められたのは43件で、割合にするとわずか20.7%に過ぎません。(平成29年度司法統計より)

家庭裁判所では慎重かつ総合的な判断がくだされるため、客観的な事実を正確に伝える必要があります。

たとえば、「昔から息子とは気が合わない」「長女は次女ほど面倒をみてくれなかったから遺産を渡したくない」といった感情的な理由では認めてもらえません。

手続きに不安がある方は、あらかじめ相続に強い専門家に相談しておくのがおすすめです。

似ているけど違う!相続欠格との違い

相続廃除と似た制度に相続欠格があります。

相続廃除と相続欠格は相続権を奪うという点で共通していますが、細かな違いがあります。

以下の表で比較してみましょう。

相続欠格 相続廃除
被相続人の意思 不要 必要
家庭裁判所の審判
取り消し 判断が分かれる 可能
代襲相続 可能
遺留分 なし なし
戸籍の記載 あり
確認・証明 相続欠格者作成の証明書・確定判決謄本 戸籍全部事項証明書

相続欠格について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

相続欠格についてはこちら

相続人の廃除は取り消すことができる

相続廃除は相続人の意思を優先する制度のため、廃除の事由が消滅していなくても後から取り消せます。

取り消し方法

相続人廃除の取り消しは、家庭裁判所に「相続人廃除の審判の取消し」を申し立てます。

この手続きは、相続廃除と同様に生前の申し立てまたは遺言で行うことが可能です。

相続廃除した人に遺贈できる

被相続人は、相続廃除した人に対しても遺言で財産を遺贈できます。

家庭裁判所に相続人廃除の取り消しを申し立てるのと同様に、遺言で財産を渡すと書き残せば、相手を許す気持ちになったと判断できるためです。

相続廃除を認めた事例・認められない事例

◯と×を持つ男性

裁判で相続廃除を認めた事例と認められなかった事例をご紹介します。

認めた事例

相続廃除の3つの要件それぞれについて認めた事例をご紹介します。

Yは相続人、Xは被相続人です。

【虐待】
Yは、Xが所有する土地上にビル建築を希望したが、Xに反対された。YはXに魔法瓶、醤油瓶を投げつけ、玄関のガラスを割ったうえ、灯油をまいて放火すると脅迫した。
(東京家裁八王子支部昭和63年10月25日審判・家庭裁判月報41巻2号145頁)
【侮辱】
長男Yは、経営する飲食店の開業・運転資金を父Xに援助してもらっていたにもかかわらず、近所で一人暮らしをするXの老後の面倒を見ることはなかった。それどころか「早く死ね。80歳まで生きれば十分だ」などと罵倒したうえ、お湯の入ったヤカンを投げつけて負傷させた。
(東京高裁平成4年10月14日決定・家庭裁判月報45巻5号74頁)
【著しい非行】
Yは窃盗罪などで何度も服役しながら、自らは被害弁償や借金返済をしなかった。Xに被害者らへの謝罪、被害弁償、借金返済などを行わせて、多大な精神的苦痛と多額の経済的負担を強いた。
(京都家裁平成20年2月28日審判・訟務月報61巻4号105頁)

認められない事例

相続人による暴行があった場合でも、被相続人に原因があれば相続廃除は認められない事例もあります。

Yは父Xに暴行を働いた。しかし、その遠因はXがその妻(Yの母)が生存中から愛人を囲い、妻の死後、一周忌にもならないうちに、周囲に理解を求める誠意・努力もないまま反対を押し切って愛人と再婚するという自己中心的な態度にあったため。
(名古屋高裁金沢支部昭和61年11月4日決定・家庭裁判月報39巻4号27頁)

相続廃除の手続きの流れ

遺言書を書くシニア

相続廃除の手続きには、2つの方法があります。

それぞれの手続きの流れを確認しましょう。

【生前廃除】被相続人自身が生前に家庭裁判所へ申し立てる

被相続人が生前に自分自身で手続きをしたい場合は、家庭裁判所に相続廃除の申し立てを行いましょう。

手続きの流れ

生前廃除の手続きは、以下の流れで行います。

1. 家庭裁判所で「推定相続人廃除の審判申立書」をもらい、記入する
2. 被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書と必要書類(※1)、手数料を提出する
3. 推定相続人廃除の審判が確定する
4. 審判書謄本と確定証明書の交付が開始される
5. 廃除が認められた場合は10日以内に被相続人の戸籍がある役場に必要書類(※2)を提出して推定相続人の廃除を届け出る
6. 推定相続人の戸籍謄本に廃除の旨が記載される

必要書類

(※1)家庭裁判所へ推定相続人廃除の申し立てをするときの必要書類は、「相続廃除申立書」「被相続人の戸籍謄本」「廃除したい推定相続人の戸籍謄本」です。

(※2)推定相続人の廃除を届け出るときの必要書類は、「推定相続人廃除届」「家庭裁判所による審判書の謄本」「審判の確定証明書」です。

「相続廃除申立書」は家庭裁判所で、「推定相続人廃除届」は市区町村役場の窓口またはホームページからのダウンロードで入手できます。

手数料

家庭裁判所に相続人廃除の申し立てをするときには、収入印紙(800円分)、裁判所からの書類郵送費として数千円程度(裁判所によって異なる)が必要です。

注意点

申し立ての際には、以下の通り書類を提出する場所期限に注意しましょう。

審判の申立先は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

審判で廃除が認められた場合、10日以内に被相続人の戸籍がある役場に廃除届けを提出してください。

【遺言廃除】被相続人が遺言書に廃除する意思表示を記す

遺言書に相続人を廃除する旨と具体的な理由を記しておけば、被相続人の死後に相続人廃除を行うことができます。

遺言廃除する場合は遺言執行者が廃除の申し立てを行うため、被相続者は生前に遺言執行者を選んでおく必要があるでしょう。

遺言書に書く内容

被相続人は、遺言書に以下のことを記しておく必要があります。

● 遺言執行者が誰か
● 推定相続人の誰かを相続廃除するという意思
● 相続廃除の具体的な理由

医師の診断書など、相続廃除の理由が事実であることを証明する書類がある場合は添付しておきましょう。

推定相続人が否定した場合、虐待などの事実を証明する証拠がなければ裁判所に認めてもらうのが困難になるからです。

手続きの流れ・必要書類・手数料・注意点

遺言廃除の手続きの流れや必要書類・手数料・注意点は先述の生前廃除と同様ですが、実際の手続きは遺言執行者が行います。

廃除を確実に実現するために

相続廃除には相続人が財産を受け取る権利を失わせる強力な効果があるため、申し立てても簡単には認められません。

廃除を確実に実現するためには、廃除の要件に該当する事実を裏付ける証拠を準備しておきましょう。

遺言廃除の場合は、弁護士などの専門家を遺言執行者に選任し、遺言書の内容や準備すべき証拠についてアドバイスしてもらうことをおすすめします。

相続廃除の確認方法・証明方法

相続廃除された推定相続人の戸籍全部事項証明書には、身分事項の欄に「推定相続人廃除」と記載されます。

つまり、全部事項証明書を見れば、相続廃除の確認や証明が可能です。

相続廃除の疑問点や相談は林商会にお任せください

ここまで、相続廃除についてご説明してきました。

大切な財産を相続させたくない人がいる場合には、廃除の要件に該当する証拠などの入念な準備が必要です。

また、手続きには煩雑なものも多く、不安に思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな相続廃除についての不安や疑問は、ぜひ相続のプロ集団である林商会にご相談ください。

相続診断士、弁護士、司法書士などの専門家が、確かな知識と豊富な経験をもとに、一人ひとりに寄り添った解決方法に導きます。

お問い合わせ

まとめ

専門家に相談するシニア

相続廃除は後から取消しできるものの、認められるためのハードルは決して低くありません。

身内に相続させたくない人がいて、相続人の廃除を検討している方は、受理される確率を高めるためにも相続の専門家に相談することをおすすめします。

公式LINEアカウントで無料相談受付中!

終活瓦版では公式LINEアカウントにて、遺品整理・終活・ゴミ屋敷などの無料相談を実施中です!

どんな些細なことでも構いません。まずはお気軽にご相談ください!

LINEをお友達追加する