法定相続人の範囲は?財産を受け取れる順位やそれぞれの法定相続分と必要な手続きについて解説

法定相続人 アイキャッチ

法定相続人の範囲や順位は、相続法といわれる民法によって細かく定められています。

身近な人が亡くなった際に、相続をめぐり遺族間でトラブルに発展することはよくあることですが、法定相続人についてしっかり把握しておけばトラブルを避けられることができるかもしれません。

法定相続人の範囲や順位、受け取れる財産の割合だけでなく「こんな場合はどうしたらいいの?」といった相続の疑問まで、わかりやすくご紹介します。

法定相続人とは

法定相続人

法定相続人とは、相続法という民法で定められた相続人のことです。

法定相続人になれる人は、配偶者血縁者であると民法によって定められています。

民法で定められている

相続法とは、相続に関するルールが定められている民法で、相続法に関する条文は、882条から1050条に収められています。

相続法は以下に分類できます。

  • 総則
  • 相続
  • 遺言
  • 配偶者の権利
  • 遺留分
  • 特別の寄与

相続人についての記載があるのは886~895条です。

相続人は、基本的に相続法に従って決められていきますが、遺言書がある場合には遺言書に記された指示が優先されます。

家族構成によって相続の順位・範囲が異なる

相続法の887条~890条では、法定相続人の優先順位について定められています。

法定相続人の優先順位は以下の通りです。

  • 相続人:被相続人の配偶者
  • 第1順位:子ども、子どもがいない場合は孫、子どもと孫がいない場合はひ孫
  • 第2順位:父母、父母がいない場合は祖父母
  • 第3順位:兄弟姉妹、兄弟姉妹がいない場合は甥・姪

被相続人の配偶者は、優先的に相続人となり、相続人の順位は、第1順位に該当する者がいない場合には第2順位に、第2順位の次はに第3順位というように変わります。

なお、「直系卑属」とは、子どもや孫などの直通する被相続人より後の世代のことを指し養子も含みますが、兄弟、姉妹、甥、姪、子どもの配偶者は含みません。

「直系尊属」とは、父母や祖父母など被相続人より前の世代で直通する親族のことを指し、養父母も含みますが、叔父、叔母、配偶者の父母、祖父母は含みません。

法定相続人の順位と法定相続分の割合

遺言書

法定相続人と法定相続分の割合について遺言書に記載されている場合には、遺言書に従います。

遺言書がない場合や、話し合いがまとまらない場合には相続法に従いましょう。

相続人が相続できる財産の割合については、相続法の900条で定められています。

配偶者

配偶者は、優先的に相続者として認められます。

配偶者の法定相続分の割合は、家族構成や親族の人数によって異なります。

法定相続人 法定相続分の割合
配偶者のみ 遺産のすべてを相続
配偶者と第1順位の法定相続人がいる場合 遺産の2分の1
配偶者と第2順位の法定相続人がいる場合 遺産の3分の1
配偶者と第3順位の法定相続人がいる場合 遺産の4分の1

被相続人に子ども、父母、祖父母、兄弟姉妹、甥、姪がいない場合、被相続人の財産はすべて配偶者が取得します。

配偶者のほかに法定相続人がいる場合には、法定相続人の順位によって法定相続分の割合が異なります。

なお、内縁の妻や内縁の夫、離婚した元妻や元夫は法定相続人として認められません。

①子どもや孫【直系卑属】

子どもや孫など直系卑属の法定相続分の割合は、以下の通りです。

法定相続人 法定相続分の割合
第1順位の法定相続人のみの場合 遺産のすべてを相続
配偶者と第1順位の法定相続人がいる場合 遺産の2分の1

第1順位の相続人が複数いる場合、財産は均等に分割されます。

直系卑属には被相続人の養子も含まれ、認知した子や生まれてくる予定の胎児にも相続権があります。

子どもと孫がいる場合、子どもが相続権を失った場合に限り、孫が相続人と認められます。

②親や祖父母【直系尊属】

親や祖父母など直系尊属の法定相続分の割合は以下の通りです。

法定相続人 法定相続分の割合
第2順位の法定相続人のみの場合 遺産のすべてを相続
配偶者と第2順位の法定相続人がいる場合 遺産の3分の1

第2順位の相続人が複数いる場合、財産は均等に分割されます。

③兄弟姉妹(甥姪)

第3順位の法定相続分の割合は以下の通りです。

法定相続人 法定相続分の割合
第3順位の法定相続人のみの場合 遺産のすべてを相続
配偶者と第3順位の法定相続人がいる場合 遺産の4分の1

第3順位の相続人が複数いる場合、財産は均等に分割されます。

被相続人の兄弟姉妹がすでに死亡している場合は、相続人が甥・姪に変わります。

遺留分について

遺留分とは、一定の相続人が最低限の財産を受け取れることが保障されている制度のことです。

被相続人は、財産の相続を誰にどのくらい分配するのかを遺言書に書き残せますが、遺留分では特定の相続人にだけ有利になることがないよう、必要最低限の財産の相続が保障されています。

遺留分の請求を「遺留分侵害額(減殺)請求」と言い、遺留分侵害額(減殺)請求ができるのは配偶者直系卑属直系尊属です。

被相続人の兄弟姉妹は遺留分の請求ができません。

この場合は法定相続人になる?

法定相続人手続き

被相続人の家族構成や親族の関係性はさまざまです。

以下では、法定相続人になるケースとならないケースについて紹介します。

未成年

未成年が相続人になる場合には、代理人を立てる必要があります。

未成年者の子どもの親が代理人を務めるのが一般的ですが、親と未成年者である子どもが利益相反関係になる場合(利益相反行為)、親は代理人になれません。

利益相反行為になるケースは、親子間での財産譲渡や財産の共同相続、相続人全員で遺産分割協議を行う場合などです。

その場合には、特別代理人の選任を該当する未成年者の住所地を管轄している家庭裁判所に申し立てなければなりません。

なお、申し立てに必要な書類は以下の通りです。

  • 特別代理人選任申立書
  • 未成年者の戸籍謄本
  • 親権者の戸籍謄本
  • 特別代理人候補者の住民票
  • 遺産分割協議案

家庭裁判所に直接提出するか、郵送で提出します。

胎児

無事に生まれてきた胎児は相続人として認められますが、死産の場合には相続人にはなりません。

胎児が相続人になる場合には、代理人を立てる必要があります。

代理人は未成年者が相続人になるケースと同じように、利益相反行為にならない場合には胎児の親が、利益相反行為になる場合には特別代理人の選任が必要です。

内縁の妻(夫)

内縁の妻または夫は法定相続人にはなれません。

しかし、生前に前贈与や遺贈などを行えば、内縁関係であるパートナーに財産を残すことが可能です。

内縁関係のパートナーに相続をする方法は以下の3つです。

  • 生前贈与をする
  • 遺言書を作成する
  • 特別縁故者になる

財産の生前贈与は贈与者と受贈者の関係にかかわらず行うことが可能なため、生前贈与すると内縁関係でも財産が受け取れます。

しかし、年間の贈与額が110万円を超える場合、受贈者は贈与税の申告が必要です。

遺言書の内容は相続の際に優先されるので、内縁関係のパートナーに財産を譲る旨を記載すると法律上の婚姻関係がなくても財産の引き渡しができます。

また特別縁故者とは、被相続人と特別親しい関係にあった人物のことです。

特別縁故者として財産を受け取るためには、家庭裁判所への申し立てが必要です。

再婚者の連れ子

被相続人の再婚相手の連れ子は、相続人にはなれません。

連れ子に財産を相続させるためには、養子縁組の手続きが必要です。

養子縁組を行うと、連れ子は法律上被相続人の子どもとなり、財産の相続が認められます。

養子縁組を行う際には、養子縁組届を管轄する市区町村役場に提出します。

なお、内縁関係の連れ子である場合には、養子縁組を行うのではなく、市役所に認知届を提出します。

認知届を提出すると、被相続人と内縁関係の連れ子の親子関係が認められ、財産の相続が可能になります。

法定相続人の把握には手続きが必要

手続きに必要な書類

法定相続人の被相続人との関係性や人数によって、相続する財産の割合が異なるので、法定相続人の把握は非常に重要です。

法定相続人を把握する方法や、手続きについて以下で詳しく解説します。

把握の方法

法定相続人を確認するためには、相続人調査を行う必要があります。

相続人調査では、被相続人の戸籍謄本や除籍謄本を調べて相続人を確認します。

戸籍謄本は、被相続人の出生から亡くなるまでの分が必要です。

被相続人が結婚して作った新たな戸籍や、引っ越しの際に転籍した戸籍などをすべて集める必要があります。

相続人調査は、戸籍収集の手間に加えて専門的な知識も必要なため、法律の専門家である司法書士や弁護士に依頼するのがおすすめです。

法定相続人を把握する理由

法定相続人は、税金の計算に法定相続人の人数が関わるため、正しい法定相続人の人数を把握することが大切です。

法定相続人の人数は、以下のような相続税の計算をする際に必要です。

相続税の基礎控除額

相続税の基礎控除とは、財産の額が一定の額に満たない場合に、相続税の申告と納税が免除される制度です。

3,000万円+(法定相続人の数×600万円)

相続人数が2人の場合は4,200万円、3人の場合は4,800万円、4人の場合は5,400万円と人数によって基礎控除額が変わります。

生命保険金の非課税限度額

生命保険金の非課税限度額とは、生命保険の死亡保険金に税金がかからない額のことです。

500万円×法定相続人の人数

仮に法定相続人が2人だった場合、生命保険金の非課税限度額は1,000万円となり、死亡保険金が1,000万円以下の場合には課税対象にはなりません。

死亡退職金の非課税限度額

死亡退職金の非課税限度額は、死亡退職金に税金がかからない額のことです。

500万円×法定相続人の数

【法定相続人】こんな時はどうする?

相続手続き

法定相続人が相続放棄をするケースや法定相続人がいないケースなども考えられます。

このような場合はどう対応したらよいのでしょうか。

法定相続人が相続放棄をしたケース

法定相続人が相続を放棄した場合は、法定相続人の順位順に相続がされていきます。

たとえば、配偶者が相続放棄をした場合は被相続人の子どもが相続し、その子どもも相続放棄をした場合には、第2順位の祖父母が相続します。

なお、被相続人に子どもが2人以上いる場合は、相続放棄をしていない子どもに財産が受け渡されます。

甥や姪が相続放棄をすると相続人がいなくなるので、相続人が不在の場合には家庭裁判所によって相続財産の管理人が選出されます。

婚姻関係にない人との間に子どもがいるケース

婚姻関係にない人との間に子どもがいる場合、市役所に認知届を提出していればその子どもは法定相続人と認められます。

しかし、子どもが認知されていない場合には、血がつながっていたとしても法定相続人として認められません。

養子縁組を行なったケース

養子縁組を行なっている場合には、子どもに相続権が与えられます。

しかし、特別養子縁組の場合は財産の相続ができないので注意が必要です。

特別養子縁組とは、虐待や育児放棄などで家庭環境に恵まれない子どもに新たな家庭環境を用意する制度です。

事実上、実親との親子関係が消滅するため、実親の財産は相続できません。

法定相続人が行方不明のケース

法定相続人の中に行方不明の人がいる場合、行方不明の法定相続人を除いて遺産を分割することは認められません。

被相続人の財産を分割する際には、必ず相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。

そのため、法定相続人の中に行方不明の人がいる場合には、不在者財産管理人選任もしくは失踪宣告を行い、相続手続きを進めましょう。

行方不明になっている法定相続人の所在がわからない場合には、不在者財産管理人を選任します。

不在者財産管理人を選出するためには、行方不明者が住んでいたとされる最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、「不在者財産管理人選任の申立書」や申立人の戸籍謄本などの資料を提出する必要があります。

なお、不在者財産管理人は行方不明の相続人に代わって財産管理を行うだけなので、遺産分割協議に参加はできません。

そのため、遺産分割協議に参加したい場合は、家庭裁判所に「権限外行為の許可」の申請が必要です。

また、行方不明になっている法定相続人の生死が不明な場合は、失踪宣告を申し立てます。

失踪宣告とは、行方不明になってから7年以上が経過した際に、行方不明者が法律的に死亡したとみなされる制度です。

失踪宣告の手続きをする際には、行方不明者の住所地を管轄する家庭裁判所に失踪の届け出や審判書謄本、確定証明書を提出します。

相続欠格や相続人廃除の対象者がいるケース

相続欠格や相続人廃除の対象者は、財産を受け取ることができません。

相続欠格 被相続人の生命を侵害する行為や、遺言書の破棄などの違法行為を行なった人物から相続権を剥奪すること
相続廃除 被相続人が家庭裁判所に申し立てを行うことによって、特定の人物の相続権が剥奪されること

相続廃除は被相続人の意思によって、特定の相続人の相続権が剥奪されます。

法定相続人がいないケース

法定相続人が誰もいない場合、財産の行きつく先は以下の3か所に分かれます。

遺言書で指定された人

被相続人が生前に遺言書を作成しており、遺言書内に財産を受け渡す人が指定されていた場合には、その指定された人が財産を受け取ります。

特別縁故者

内縁者や療養看護を行なっていた人など、被相続人と特別な関係である特別縁故者は、財産分与の申し立てをができます。

相続する際には、被相続人の最後の住所地を管轄している家庭裁判所に必要書類を提出し、財産分与の申し立てを行いましょう。

国庫に帰属

遺言書がなく特別縁故者もいない場合、もしくは特別縁故者への財産分与で余った財産がある場合には国庫に帰属されます。

故人が独身のケース

故人が独身で配偶者や子どもがいない場合には、故人の親が相続人です。

両親が生きている場合は2人が相続し、ひとり親の場合は1人が相続します。

誰も相続する人がいない場合には、遺言書で指定された人か特別縁故者に財産贈与、国庫に帰属のいずれかの対応に分類されます。

まとめ

相続まとめ

法定相続人については、相続法という民法によって細かく決められています。

法定相続人の人数は、相続税の計算や財産相続の話し合いに大きく関わってくるので、相続人調査で確認する必要があります。

被相続人と内縁関係であったり連れ子がいたりする場合、財産の相続が認められる場合と認められない場合があるので、相続が発生する前によく確認しておくことをおすすめします。

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