初めて遺贈という言葉を耳にして、遺贈の意味や相続との違いに疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。
遺贈とは遺言によって指定した受遺者に財産を譲ることで、包括遺贈と特定遺贈の2種類あり、相続とは似て異なるものです。
今回は遺贈と相続の違いのほか、放棄方法や遺言書を書く際の注意点についても、わかりやすく解説します。
目次
遺贈(いぞう)とは?
遺贈とは、故人の遺言によって、遺贈者(遺産を贈る側)の財産の一部またはすべてを受遺者(遺産を受け取る側)に無償で譲ることです。
法定相続人でなければ財産を譲れない法定相続に対し、遺贈の場合は、遺言を残せば法定相続人以外の第三者を受遺者にしたり特定の会社に寄付したりできます。
遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類ある
遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があることをご存じでしょうか?
ここでは、両者の違いについて解説します。
包括遺贈
包括遺贈の詳細と注意点は下記の通りです。
包括遺贈とは
包括遺贈とは、不動産や現金など特定の遺産ではなく、遺産の全部または一定の割合分を受遺者に譲ることです。
たとえば「遺言者は財産のすべてをAさんに包括遺贈する」「遺言者は相続財産の3分の1をBさんに譲る」と遺言書に記載されます。
包括遺贈の注意点
遺産の内容を特定しない包括遺贈の遺産には、ローンなどのマイナスの資産も含まれます。
包括遺贈を選択すると、遺産を受け取る側はマイナスの資産も割合に応じて引き継いでしまうため、注意しましょう。
なお、受遺者はマイナスの資産も引き継いでしまった場合などに相続放棄が可能ですが、相続の開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所で申し立てなければなりません。
特定遺贈
特定遺贈の詳細と注意点は下記の通りです。
特定遺贈とは
特定遺贈とは、遺産のうち特定のものを指定し、特定の受遺者に譲ることです。
たとえば「遺言者は、遺言者の財産のうちAさんには土地・Bさんには現金・C会社には株式を与える」などと遺言書に記載されます。
特定遺贈の注意点
特定遺贈で法定相続人以外の特定の人に不動産を譲った場合、相続税とは別に不動産取得税がかかる点に注意しましょう。
包括遺贈であれば不動産取得税は不要です。
ほかにも、遺言書に記載した内容が法定相続人の遺留分を侵害している場合、遺留分侵害額請求権を行使される可能性があります。
遺留分とは、故人の配偶者や子どもなどが最低限度の遺産を受け取れる権利です。
遺留分侵害額請求権を行使されると、受遺者は侵害した遺留分に相当する金額を支払わなければなりません。
【必読】遺贈と相続の違い
遺贈と相続とは似て異なるものです。
ここでは、遺贈と相続の違いを受け取る人・税金・登記の3つのポイントに分けて解説します。
①財産を受け取る人が違う
遺贈と相続では財産を受け取る人が違います。
故人の財産を法定相続分に応じて相続人が受け取る相続に対し、遺贈は遺言書により指定した受遺者が無償で財産を受け取ります。
受遺者は、法定相続人以外の特定の第三者や会社でも可能です。
そのため、法定相続人以外の人に財産を譲りたい場合は遺贈となり、遺言書を準備する必要があります。
法定相続人について更に詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
②遺贈は相続よりも税金が高くなる
遺贈は相続よりも相続税が高くなりやすいです。
ここでは、遺贈と相続にかかる課税上の違いについてご説明します。
遺贈は相続税の基礎控除の対象外
遺贈は相続税の基礎控除の対象外です。
法定相続人に相続する場合、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)が受けられますが、遺贈の受遺者は基礎控除額の計算式の「法定相続人の数」に含まれません。
つまり、受け渡した金額によっては受遺者が相続税をを支払わなければならないため、注意しましょう。
相続税が2割加算される
相続より遺贈のほうが相続税も割高です。
第三者の受遺者が遺贈によって故人の財産を取得した場合、法定相続人の相続税より2割増しの税金が課せられます。
たとえば、受遺者の相続税が100万円の場合、相続税が2割加算されて納税額は120万円になるのです。
特定遺贈には不動産取得税がかかる
特定遺贈で第三者に不動産を譲る場合、受遺者には不動産取得税がかかります。
包括遺贈や相続なら、不動産取得税はかかりません。
第三者に遺贈する場合はトラブルが起きにくい特定遺贈のほうがおすすめですが、不動産取得税がかかる点に留意しましょう。
遺贈は相続より登録免許税が高い
不動産を自身の所有物だと第三者に証明する登記にかかる登録免許税の税率も、相続と遺贈では違います。
相続では不動産評価額(固定資産税評価額)の0.4%ですが、法定相続人以外に遺贈した場合は2%です。
【必読】国・地方公共団体や特定の公益法人への遺贈寄付は相続税が非課税
相続や遺贈によって財産を受け取った個人には相続税、株式会社などが受け取った場合は法人税が課されます。
しかし、遺言によって遺贈寄付を受けたのが国や地方公共団体・特定の公益法人の場合は、寄付が相続税を減少するための行為とされない限り、相続税は課税されません。
つまり、遺贈寄付を受けた団体などが公益的な事業を行なっていれば、相続税は非課税です。
近年、遺贈寄付は人生最後の新しい社会貢献として注目されています。
③不動産登記手続きが違う
遺贈と相続では不動産の登記手続きも違います。
遺贈や相続などで不動産の所有者が変わると、名義変更のために所有権移転登記を行わなければなりません。
遺贈と相続では不動産の登記手続きも違い、遺贈のほうが手間がかかります。
遺贈登記は受遺者と相続人全員が共同で行わねばならない
相続により不動産を取得した場合、不動産の所有権移転登記は単独で行えます。
一方、遺贈により不動産を取得した場合には、受遺者と法定相続人が共同で所有権移転登記を行わねばなりません。
登記申請には受遺者はもちろん、法定相続人の戸籍謄本や印鑑証明書なども必要です。
受遺者と法定相続人の関係が良好であれば問題ありませんが、相続争いなどで対立関係にあれば、必要書類の取得に協力してもらえず登記手続きが進まない恐れがあります。
遺贈は登記しないと権利を主張できない
相続だけでなく遺贈の場合も、第三者に不動産の所有権を主張するためには登記が必要です。
遺贈登記しなければ、いつまでも名義が以前の所有者のままで、受け取った不動産の売却や処分ができません。
さらに、不動産が二重譲渡されていた場合、遺贈登記していない受遺者は最終的に所有権を失ってしまう可能性もあるため、注意してください。
農地の遺贈には農業委員会もしくは都道府県知事の許可が必要
農地の特定遺贈には、農地法により農業委員会もしくは都道府県知事の許可が必要です。
農業委員会もしくは都道府県知事の許可には条件があり、受遺者が農業従事者ではないなどの理由で許可が下りず、登記できない可能性があります。
一方、相続や包括遺贈であれば農業委員会もしくは都道府県知事の許可は不要です。
借地権・借家権の遺贈には賃借人(地主)の承諾が必要
借地権や借家権を遺贈する場合には、賃貸人の承諾が必要です。
そのため、借地権や借家権を遺贈したいと思っていても、賃貸人の承諾がなければ遺贈できません。
しかし相続であれば賃貸人の承諾は不要で、被相続人の意思による相続が可能です。
生前贈与との違いは何?
生前贈与とは、生前に財産を特定の人に無償で譲る「契約」です。
贈与とは言え契約なので、財産を無償で譲りたいと思っても単独では行えず、相手の同意が必要となります。
さらに、相手の同意があれば口頭でも契約が成立して生前に効果が発生するため、財産の所有権は生前に移転するのも特徴の一つです。
一方、遺贈は受遺者の同意がなくても、遺言者の一方的な意思表示によって単独で行えます。
ただし生前に効果は発生せず、必ず要式を守った遺言書で行わなければなりません。
死因贈与との違いは何?
死因贈与とは、被相続人(贈与者)の死亡を条件として効果を発生させる契約です。
生前贈与と同様に相手の同意が必要な「契約」で、口頭でも成立します。
一方、遺贈は受遺者の同意がなくても、遺言者の一方的な意思表示によって単独で行えますが、必ず要式を守った遺言書で行わなければなりません。
遺贈は放棄できる!
受遺者によっては、遺贈された財産が要らない場合もあるでしょう。
ここでは、遺贈を放棄する方法を包括遺贈と特定遺贈に分けて解説します。
包括遺贈を放棄する方法
包括遺贈を放棄する場合、受遺者は遺贈者の死亡を知ってから3か月以内に家庭裁判所に包括遺贈を放棄する申述書を提出します。
遺贈者の死亡を知ってから3か月以上経過すると、放棄できません。
つまり、受遺者は相続人が行う相続放棄と同じ義務を負います。
特定遺贈を放棄する方法
特定遺贈の放棄は、相続の発生後いつでも放棄可能です。
包括遺贈と違い、家庭裁判所への申述書の提出なども必要ありません。
さらに、特定遺贈で受け取った財産が分割できる場合は、一部を放棄して残りを受け取ることもできます。
遺贈の放棄は撤回できる?
一度意思表示した遺贈の放棄は、基本的には撤回できません。
しかし、脅迫や詐欺・錯誤(無意識による意思表示の間違い)によって放棄してしまった場合や、被後見人が単独で遺贈を放棄した場合などには取り消しが可能です。
取り消しができるのは、詐欺や脅迫などの事実を知ってから6か月以内または放棄の意思表示から5年以内とされています。
遺贈の遺言書を作成する際の注意点
遺贈の遺言書を作成する際には、いくつかの注意点があります。
受遺者に迷惑をかけないためにも確認しておきましょう。
法定相続人の遺留分に配慮する
財産を遺贈する際には、法定相続人の遺留分に配慮しなければなりません。
遺留分とは、故人の兄弟姉妹や甥姪以外の法定相続人に最低限保証される権利です。
故人の配偶者や子どもなどには遺留分があるため、遺言に特定の第三者に財産のすべてを遺贈する旨を記載したとしても、遺留分の請求ができます。
遺留分を請求された受遺者は、遺留分に相当する金額を返さなければなりません。
受遺者と法定相続人とのトラブルを避けるためにも、遺留分に配慮しましょう。
遺留分について更に詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
遺言執行者を必ず決めておく
遺言に基づいて遺贈するために、遺言執行者を必ず決めておきましょう。
遺言執行者とはその名の通り、相続が遺言に基づいて実行されるよう必要な手続きを行う人です。
実際に遺言内容を実行するとなると、複雑な相続登記や戸籍謄本などの収集に手間がかかり、手続きがスムーズに進まない場合があります。
遺言執行者を決めておけば、相続人代表として行動するため相続人の負担も減り、手続きがスムーズです。
さらに、遺言執行者が決まっていれば、相続人は相続財産の処分など遺言の執行を妨げる行為ができません。
遺言通りに遺贈を行うためにも、遺言執行者を決めておくと安心でしょう。
受遺者に生命保険金を受け取らせる方法も検討する
高額な遺産を譲りたいなら、受遺者に生命保険金を受け取らせる方法も有効です。
生命保険金は遺産分割の対象にならず、指定された受取人が全額受け取れます。
ただし、遺産分割の対象にはなりませんが、相続税法上みなし相続・遺贈財産として課税対象になる点に注意しましょう。
相続人以外の第三者が受遺者であれば遺贈により取得したものとみなされ、法定相続人の相続税より2割増しの税金が課せられます。
遺贈についての疑問や相続に関するご相談は林商会にお任せください!
この記事では、遺贈と相続の違いや遺贈の遺言書を作成する際の注意点などについて解説してきました。
遺贈の際には遺留分への配慮などの正しい専門知識が必要なため、少しでも疑問や不安を感じたら相続のプロに任せることをおすすめします。
相続のプロ集団である林商会には、税理士・弁護士・司法書士・行政書士などが在籍しており、遺贈についての疑問や相続のお悩みに丁寧に寄り添ってスムーズな解決へと導きます。
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まとめ
遺贈とは遺言によって指定した受遺者に財産を譲ることで、相続とは財産を受け取る人や税金、登記手続きが違います。
遺贈すれば法定相続人以外の第三者に財産を残せる一方、通常の相続よりも税率が高く、不動産登記手続きも煩雑になるのが特徴です。
法定相続人の遺留分に配慮しなければトラブルにつながる恐れもあるため、注意しましょう。
遺贈をスムーズに進めたいなら、専門家に相談して不安を解消するのも一つの方法です。