「亡くなった父に借金があったなんて知らなかった…」「親の借金で親戚に迷惑をかけないためには?」というお悩みの声をよく耳にします。
親が亡くなった後の借金の対処法として相続放棄が挙げられますが、他の親族とのトラブル回避のためにも正しい理解が必要です。
この記事では、相続放棄したら借金はどうなるのか?メリットやデメリットは?などの疑問にお答えします。
親の借金をどう対処すべきかお悩みの方は、ぜひ参考になさってください。
目次
相続放棄した方がよいケース
相続人になった場合、明らかに相続放棄をしたほうがよいケースもあります。
真っ先に思いつくのは、亡くなった親に借金がある場合です。
それ以外にも、被相続人が他人の保証人になっている場合や、生前の生活や金銭状況を把握しておらず、知らない借金が存在している可能性が高い場合などが挙げられます。
相続する遺産がプラスではなくマイナスの財産が多いと判断できる場合は、相続放棄を検討しましょう。
相続放棄のメリット・デメリット
相続放棄をすれば借金を肩代わりする必要がなくなるので、メリットしかないように思われるかもしれません。
しかし、安易に相続放棄を選択すると後悔することもあるので、メリットとデメリットをしっかりと確認しておきましょう。
メリット
相続放棄の最大のメリットは、被相続人の借金や負債の返済義務を負わないことです。
住宅ローンをはじめ、滞納している税金や家賃、損害賠償債務や買掛金など、あらゆる負債から解放されます。
そのため、相続した財産がプラスよりもマイナスの多かった人にとって、相続放棄はとても魅力的な制度です。
また、保証人や損害賠償請求の被告などの厄介な立場も、相続放棄をすることによって受け継ぐ必要がなくなります。
デメリット
一方、相続放棄のデメリットはプラスの遺産も一切相続できなくなることです。
その他にも、自分が相続放棄をした際に新たな相続人が出てくることで、別のトラブルが起こる可能性もあります。
また、相続放棄は1度受理されると撤回できません。
そのため、相続放棄した後に借金よりも財産が多いとわかっても、1円も相続できないままです。
親(被相続人)が亡くなった後の借金は相続放棄で対処できる
親が亡くなって借金が残っている場合、解決策として挙げられるのが相続放棄です。
一体どのようなものか、以下で解説します。
相続放棄は家庭裁判所で手続きが必要
相続放棄をするためには、まず家庭裁判所へ申し立ての手続きを行わなくてはなりません。
手続きの期限は、被相続人が亡くなってから3か月以内と定められています。
また、申し立ての際には被相続人の借金や財産の状況を把握しなくてはなりません。
住宅ローンなど以外にも、家族が知らない借金や財産がないかを調べるのには時間がかかるため、早めに行動しましょう。
相続放棄の手続きの詳細は、以下の記事をお読みください。
親(被相続人)の借金を把握する財産調査の方法
相続放棄するかどうかを判断するためには、まずは借金を把握する必要があります。
借金を把握する具体的な方法は以下の通りです。
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相続放棄の手続き中に借金の請求がきた場合
相続放棄の手続き中に借金の返済を求める連絡が来た場合でも、決して返済してはいけません。
というのも、被相続人の財産から返済に応じると借金を相続したとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があるのです。
このような場合は「相続放棄の手続き中」であることを伝え、返済をしないのが正しい対処方法と言えます。
親(被相続人)の借金の連帯保証人である場合、相続放棄はできない
相続放棄はあくまでも被相続人である親名義の借金にのみ適用されます。
したがって、子どもである自分が親の借金の連帯保証人になっている場合、この借金の返済義務を放棄することは認められません。
相続放棄以外の借金の対処法は?
相続放棄以外にも、亡くなった親の借金の返済を免れる方法があります。
親(被相続人)が生きている間は債務整理
親が生きている間であれば、債務整理によって借金を解決することが可能です。
債務整理とは、借金を減額、もしくはゼロにする手続きのことで、主に自己破産、個人再生(民事再生)、任意整理の3つの方法があります。
方法 | 概要 |
自己破産 | 借金を返済するための財産がないと裁判所に認めてもらうことで、借金の返済義務が免除される。 住宅や車などの高価な財産を手放す必要があるが、戸籍などに残らないため、今後の生活への影響も少ない。 |
個人再生(民事再生) | 借金の返済が困難であることを裁判所に認めてもらった後、減額された借金を5年以内に分割で返済する。 |
任意整理 | 貸金業者と借金の減額や金利の見直し交渉を行い、生活に支障のない範囲内で毎月の返済を行う。 |
親の借金はあくまでも親の責任です。
親に多額の借金がある場合は、生前に上記いずれかの方法で借金の負担を軽減することをおすすめします。
相続放棄と似ている!?「限定承認」という手段もある
相続放棄と似ている方法として限定承認があります。
限定承認とは、被相続人の財産の範囲内で借金の返済をすれば、それ以上の借金を返済しなくてもよいという制度です。
たとえば、相続した財産が300万円の持ち家と500万円の借金だった場合、限定承認なら債権者への返済は持ち家と同額の300万円で済み、残りの200万円は返済義務がなくなります。
さらに、持ち家は財産として相続も可能です。
また、借金を返済した後に財産が余った場合、その財産を相続人が受け継ぐことができるのも限定承認の特徴と言えるでしょう。
ただし、手続きが複雑で手間や時間がかかるので、慎重に検討したうえで選択することをおすすめします。
相続放棄したら借金はどうなる?
相続放棄は自分だけの問題ではありません。
放棄した後の借金がどうなるのかを理解したうえで、相続放棄が最善の方法かどうかを検討するようにしましょう。
相続放棄しても借金は消えない
相続放棄をしたからといって借金がなくなるわけではありません。
相続放棄とは、「自分は初めから相続人ではない」と認めるための手続きであり、借金を帳消しにする意味合いではないことを理解しておきましょう。
相続放棄をすると、相続権は移動する
相続放棄をすれば、返済請求が来ることはありません。
しかし借金は残るので、相続権が移動して新たな相続人が出てきます。
相続放棄をすることで親族が次の相続人となり、思わぬトラブルに発展するケースも珍しくありません。
親族間のトラブルを回避するためには、相続放棄を検討し始めた時点で新たな相続人となる人に連絡し、説明や話し合いを行うのがマナーです。
代襲相続は起こらない
代襲相続とは、被相続人が亡くなるよりも前に相続人である子どもが亡くなっている場合、孫にあたる人が相続人になる制度のことです。
相続放棄をした場合は、初めから相続人とみなされないため、相続権そのものが発生しません。
つまり、相続放棄をすれば代襲相続は関係なくなるので、相続権が下の世代に移ることはないのです。
相続放棄したら、次の相続人は誰になる?
相続放棄をした場合に備えて、次の相続人が誰になるのかを確認しておきましょう。
相続の優先順位と割合
相続人となる人は民法によって配偶者と血縁者と定められていますが、家族構成によって相続の優先順位や割合が異なります。
配偶者は優先的に相続人として認められていますが、その他の優先順位は以下の通りです。
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被相続者の子どもは第1順位となり、相続の割合は以下のいずれかが該当します。
家族構成 | 相続割合 |
配偶者と第1順位の法定相続人がいる場合 | 遺産の2分の1 |
第1順位の法定相続人のみの直系卑属の場合 | 遺産のすべてを相続 |
ちなみに、第1順位である法定相続人が複数いる場合、財産は均等に分配されます。
相続の優先順位や割合の詳細については、以下の記事をお読みください。
相続権の移動は1回だけではない
相続権の移動は1回限りではありません。
相続放棄をした場合は、法定相続人の相続範囲である兄弟姉妹まで相続権が移動するので、注意が必要です。
借金で迷惑をかけないために!対象者全員で話し合いをしよう
借金の相続を望む人はいません。
相続放棄をすることで他の誰かに迷惑をかけないためには、相続権が移動する可能性のある人全員で話し合うことが大切です。
相続放棄したことを次の相続人に伝える
親の借金で親族に迷惑をかけないためには、できるだけ早いうちに相続放棄を検討していることを伝えましょう。
そのうえで相続権が移動することを知らせ、親族にも対処方法を考えるように提案します。
もちろん、相続放棄をしたら次の相続人に知らせることを忘れてはいけません。
連絡先がわからない場合
相続権が移動する親族の連絡先を知らないというケースも珍しくありません。
その場合は、相続放棄に詳しい司法書士もしくは弁護士に相談して、相続放棄の手続きを行なってもらいましょう。
連絡先を知らないからといって相続放棄したことを次の相続人に伝えないのは、あってはならない行為です。
理解不足や連絡不足はトラブルの元
相続は難しいというイメージが強く、面倒なことは避けたいと思っている人もいらっしゃるでしょう。
そのため、自分だけが相続放棄をしてそれで終わりというケースも多いのが現状です。
しかし、相続放棄の際には正しい知識と親族への連絡が必要不可欠です。
相続はただでさえトラブルが起こりやすいうえに、相続放棄によって親族が借金を背負う可能性もあります。
トラブルを回避するためには、相続放棄の正しい理解と親族への誠実な対応が求められることを自覚しましょう。
全員が相続放棄することは可能?
相続人の全員が相続放棄をしたらどうなるのでしょうか。
全員が相続放棄することは可能
相続人の全員が相続放棄を行うことは可能です。
不可能となれば、最後の相続人となった人がすべての借金を背負います。
相続放棄をした場合でも、相続権の移動先が他にある場合はその人に権利が移行するので、注意が必要です。
もしも借金を理由に相続人の1人が相続放棄をするのであれば、相続人全員で行うことを検討するほうが得策と言えるでしょう。
全員が相続放棄するなら相続財産管理人を選任する
全員が相続放棄をした場合、債権者は家庭裁判所に相続財産管理人の選任申し立てを行います。
相続財産管理人が選任されると、被相続人の財産調査やプラスの財産を処分して債権者に返済を行いますが、弁護士が選任されるのが一般的です。
ちなみに、プラスの財産があり債権者が複数いる場合は、借金の金額に関係なく均等に配分されます。
相続財産管理人が選任されないケース
全員が相続放棄をした場合でも、相続財産管理人が選出されないケースもあります。
債権者が家庭裁判所に相続財産管理人の申し立てを行うためには、50~100万円程度の予納金が必要です。
しかし、予納金やその他の申立費用以上の金額を返済してもらえないとわかった場合、債権者にはメリットがないため、相続財産管理人の選任申し立てを行いません。
財産は国庫に行く
被相続人の財産を処分して借金を返済した後に相続財産が残ってしまった場合は、必要な手続きを経て国庫に帰属します。
国庫に帰属するとは、国が財産を取得することです。
そのため、相続人が本当にいないかの確認が厳重に行われます。
少しでも不安な場合は弁護士などの専門家に相談
借金の相続放棄について少しでも不安を感じている場合は、1人で悩まず専門家に相談することをおすすめします。
こんなときは専門家に相談しよう
相続放棄はどんなケースであっても慎重な対応が必要ですが、以下のように自力での解決が困難な場合は、早めに専門家に相談しましょう。
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確実に相続放棄を行うなら、弁護士に手続き代行を依頼
借金の相続放棄を確実に行いたい場合は、弁護士に手続きを代行してもらうのがよいでしょう。
というのも、債権者は相続放棄によって債権を回収できないことを避けるため、相続放棄の意思を伝えても執拗に督促をしてくる場合があるためです。
弁護士に手続きを依頼すれば債権者との窓口になってくれるため、督促の対応が必要なくなり精神的な負担も軽減されるでしょう。
まとめ
相続放棄は親の借金を返済する義務を負わなくて済むメリットのある制度です。
しかし、自分が相続放棄をすると相続権が親族に移動してトラブルになるケースもあります。
相続放棄をしても借金がなくなるわけではないので、本当に相続放棄が必要なのかをよく検討しましょう。
もしも相続放棄を少しでも検討しているのであれば、まずは相続人になる可能性がある親族と連絡を取り、相談することが大切です。
また、相続放棄は判断や手続きが難しいので、専門家に相談して円滑に進めることをおすすめします。
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