相続が発生すると、遺族がすべき手続きは多岐にわたります。
なかには期限が設けられているものもあり、どのような流れで行うかを把握しておかないとトラブルになってしまうケースも多いため、注意が必要です。
この記事では、相続税申告と預金手続きをメインに相続の流れをわかりやすく解説します。
また、流れを把握していないことでトラブルが起こりやすい預金相続についても紹介しているので、相続の際に参考にしてみてください。
目次
【5年間の流れ】相続手続き全体の主なスケジュール
遺産相続は被相続人が亡くなった瞬間から発生し、正しく相続するためにはたくさんの手続きが必要になります。
遺産相続の手続きには、それぞれ目安となる期限があるので、手続きの優先順位を確認しながら行うことが大切です。
トラブルや不利益を被らないように、期限内に手続きを済ませましょう。
こちらの表が相続手続きの主な流れです。
期限 | 手続きの内容 |
死亡から1週間以内 |
|
死亡から10~14日以内 |
|
死亡から3か月以内 |
|
死亡から4か月以内 |
|
死亡から10か月以内 |
|
死亡から1年以内 |
|
死亡から2年以内 |
|
死亡から3年以内 |
|
死亡から3年10か月以内 |
|
死亡から5年10か月以内 |
|
①死亡から1週間以内の手続き
死亡診断書の受け取り
期限 |
|
必要なもの |
|
入手場所 |
|
期間 |
|
費用相場 |
|
提出先 |
|
死亡診断書は、遺体の火葬や埋葬をするために必要な書類です。
また、死亡の理由が不明な場合や事故の場合には、死体検案書が発行されます。
死亡診断書は、その他の手続きにも必要になる場合があるので、原本に加えてコピーも用意しておくとよいでしょう。
死亡届の提出
期限 |
|
必要なもの |
|
入手場所 |
|
期間 |
|
費用相場 |
|
提出先 |
|
死亡届は死亡診断書と合わせて1枚の書類になっています。
早めに行う必要がある死亡届の提出ですが、葬儀や火葬を行う葬儀会社が代行してくれる場合も多いでしょう。
死体埋葬火葬許可証の受け取り
期限 |
|
必要なもの |
|
入手場所 |
|
期間 |
|
費用相場 |
|
提出先 |
|
死体埋葬火葬許可証は、葬儀会社での火葬を申し込む際に必要です。
死亡届を提出する際に合わせて、死体埋葬火葬許可申請書を市区町村役場に提出し、死体埋葬火葬許可証を受け取りましょう。
②死亡から10~14日以内の手続き
葬儀
期限 |
|
必要なもの |
|
葬儀会社へ申し込みをして、お通夜や葬儀を行います。
発行された領収書があれば葬儀費用は相続財産から控除できるので、大切に保管しておきましょう。
年金受給停止の手続き
期限 |
|
必要なもの |
|
入手場所 |
|
期間 |
|
提出先 |
|
年金を受け取る権利がなくなったことを報告するために、必要な書類を添えて「受給権者死亡届」を提出します。
年金は2か月に1度支払われるので、亡くなる前の未払いの年金がある場合は、年金事務所に給付請求を行いましょう。
健康保険の資格喪失届の提出
国民健康保険の場合 | 健康保険の場合 | |
期限 | 亡くなった日から14日以内 | 亡くなった日から5日以内 |
必要なもの |
|
|
期間 | 即日 | |
提出先 | 市区町村役場 | 会社経由で年金事務所 |
故人が75歳以上の場合は、合わせて後期高齢者医療資格喪失届も提出します。
介護保険の資格喪失届の提出
期限 |
|
必要なもの |
|
入手場所 |
|
期間 |
|
提出先 |
|
亡くなった人が65歳以上の場合で保険料を払い過ぎていたときは、「保険料過誤状況届出書」を提出して還付を受けられますが、未払いの保険料がある場合は、相続人に保険料が請求されます。
世帯主変更届の提出
期限 |
|
必要なもの |
|
入手場所 |
|
期間 |
|
提出先 |
|
故人以外の世帯員が1人の場合や、15歳未満の子どもとその親権者だけの場合は、世帯主の変更届は不要です。
生命保険金の受け取り
故人が入っていた生命保険の保険金を受け取る手続きは、他の相続人への報告などをせずに受取人が行うことができます。
生命保険金の請求の期限は亡くなった日から3年ですが、時間が経つと請求を忘れてしまったり、必要な書類を集めるのが大変になったりするので、早めに申請をしておきましょう。
書類にまったく不備がなかった場合は、原則5営業日以内に保険金が支払われます。
内容を確認しなければならなかったり、特別な照会が必要だったりすると、支払いまでに時間がかかるため、注意が必要です。
金融機関への連絡
故人が名義人になっている口座に残された預金は、遺産として遺族や遺言執行者が払い戻しを行いますが、払い戻しをするためには必要な書類を提出して手続きをする必要があり、場合によっては数日かかることもあります。
他の相続人が勝手に引き出してしまわないように、早めに金融機関へ連絡をして、口座の取引を制限してもらいましょう。
公共料金や各種サービスの変更と解約
故人の銀行口座から引き落としをしていた公共料金や各種サービスがある場合は、解約や支払方法の変更を早めに行います。
|
③死亡から3か月以内の手続き
遺言書の確認・検認
遺産相続を進めるときに重要となるのが、遺言書の有無です。
遺産はすべての相続人による話し合いによって分けますが、遺言書が残されていた場合は、その内容に従う必要があります。
自筆証書遺言が残されていた場合は、家庭裁判所に検認の申し立てをして、家庭裁判所にて開封と確認を行う必要があるので、勝手に開けないようにしましょう。
検認をせずに自筆証書遺言を開封すると、5万円以下の過料を請求されます。
また、生前遺言書についての話をしていなかったとしても、公証役場で公正証書遺言を作成している可能性もあるので、公証役場で検索をしてみるとよいでしょう。
相続人の調査、相続財産の調査
遺言書がない場合、遺産の分け方を決める「遺産分割協議」を行うために、相続人が誰なのかを明確にする必要があります。
加えて、故人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本と除籍謄本を確認して、相続人となるすべての人とすべての財産を調査しなければなりません。
預貯金や不動産などのプラスの遺産だけでなく、借金や未払いのマイナスの財産についても確認しておきましょう。
遺産分割協議の開始
遺産分割協議は、すべての相続人によって行われます。
相続人が未成年の場合は「法定代理人」を立てることが可能ですが、未成年の親も相続人の場合は「法定代理人」になることができません。
そのため、相続人ではない親族の中から家庭裁判所が「特別代理人」の選任を行います。
遺産分割協議で意見がまとまらない場合は家庭裁判所に申し立てをして、調停で話し合いを進めます。
それでもまとまらない場合は遺産分割審判にもつれ込むことになり、遺産相続の決着に長い時間を費やすことになるでしょう。
相続の放棄または限定承認
遺産の中には、借金など相続したくないマイナスの遺産もあります。
マイナスの遺産を放棄する場合、手続きは相続が発生したことを知った日から3か月以内です。
相続放棄 | すべての遺産を相続しない |
限定承認 | 相続した遺産の中から借金を返し、残金があれば受け取る |
相続放棄は個人で決定して行うことができますが、限定承認はすべての相続人で行わなければなりません。
④死亡から4か月以内の手続き
故人の所得税の確定申告(準確定申告)
期限 | 亡くなってから4か月以内 |
提出先 | 管轄の税務署 |
故人の代わりに相続人が行うのが準確定申告です。
|
といった場合に、申告と納税をしなければなりません。
手続きは時間がかかり、納付期限を過ぎると延滞税が発生するので、早めに申告をしましょう。
⑤死亡から10か月以内の手続き
相続税の申告と納付手続き
相続税は、財産が基礎控除額を上回った場合に納付します。
遺産分割協議がまとまっていなかったとしても、期限である10か月を過ぎると延滞税が発生するので、注意しましょう。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議がまとまり、内容が決まったら、相続人全員分の「遺産分割協議書」を作成します。
すべての相続人の署名と押印が入った遺産分割協議書を用意することで、遺産相続の手続きがスムーズになるでしょう。
預貯金・有価証券などの名義変更
故人の預貯金や有価証券はそのままにしておくと凍結されて、現金が引き出せない状態になってしまいます。
凍結を回避するために名義変更を行うか、口座を解約して相続人の口座に現金を移すことで、自由に引き出すことが可能です。
⑥死亡から1年以内の手続き
遺留分侵害額請求
民法では、配偶者や子ども、親などが相続する最低限の取り分が定められています。
そのため、遺言書に本来の相続人以外の人に多く遺産を残す遺志が残されていたとしても、相続すべき分は「遺留分」として守られるようになっているのです。
遺留分を侵害された相続人は、不利益を被らないように遺留分侵害額請求を訴えることができます。
⑦死亡から2年以内の手続き
健康保険の埋葬料・葬祭費の請求
葬祭費は、故人が国民健康保険や後期高齢者医療制度に入っていた場合、葬儀を行なった日の翌日から2年以内に請求可能です。
また埋葬料は、健康保険に加入していた会社員が亡くなった日から2年以内に請求できるもので、喪主に対して支払われます。
⑧死亡から3年以内の手続き
生命保険金の請求など
故人が亡くなってすぐに請求を行なっていなかった場合、期限の3年を過ぎる前に忘れずに保険金の請求を行いましょう。
必要な書類は以下の通りです。
|
⑨死亡から3年10か月以内の手続き
相続税軽減の手続き
相続税の申告と納付期限である、「故人が亡くなってから10か月の間」に遺産分割協議がまとまらなかった場合、分割しないまま申告と納税を行う必要が出てきます。
そうすると、本来ならば受けられるはずの相続税軽減措置が適用されず、必要以上の相続税を支払うことになってしまうのです。
しかし相続税を申告する際に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくことで、後から相続税軽減の特例を受けられるでしょう。
⑩死亡から5年10か月以内の手続き
相続税の還付請求の手続き
相続税の申告と支払いが終わった後になって、払い過ぎていることがわかったときには、請求をすればお金を戻してもらえます。
相続税にはさまざまな特例があり、税制改正も頻繁に行われているため、特例を使わずにそのまま申告してしまうことも珍しくありません。
遺族年金の受給申請
故人が国民年金や厚生年金に入っていた場合、遺族は遺族年金を受け取れます。
受給申請に必要な手続き | |
国民年金 | 年金事務所に死亡届を提出 |
厚生年金 | 会社を通じて資格喪失届が提出 |
年金事務所に提出する書類はその場所によって異なりますが、多くの場合戸籍謄本や住民票、所得証明書、死亡診断書などが必要になります。
【トラブルに注意】預金相続の流れとタイミング
取引先の銀行との預金相続の流れ
口座の名義人が亡くなった場合、自由にお金を出し入れすることができないように凍結されます。
そのため、預金を相続には所定の手続きが必要です。
1.手続きの申出 |
|
2.必要書類の準備 |
|
3.書類を銀行へ提出 |
|
4.払い戻しの手続き |
|
必要な書類は遺言書があるかどうかなど、遺産分割の方法によって異なります。
また、銀行によっても手続きの仕方が異なる場合があるので、早めに問い合わせをしておくとよいでしょう。
遺産分割前の預金引き出しは避けるべき!
遺産分割前に預金を引き出すと、相続を承認したとみなされます。
これは、預金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続することを意味するため、相続放棄や限定承認ができなくなるのです。
もし、葬儀費用や入院費の精算にお金を使いたい場合には、預金を「仮払い」することで遺産分割前に引き出すこともできます。
仮払いは相続人1人でも行えますが、遺産分割前ということで他の相続人との間でトラブルにつながる可能性があるので、注意が必要です。
また、仮払いしたお金を生活費などに使ってしまうと相続を承認したことになり、相続放棄ができなくなります。
故人に借金があって相続放棄を検討しているのであれば、仮払いも避けたほうがよいでしょう。
【期限に注意】相続税の申告手続きの流れ
相続税を申告するまでの流れを、簡単に見ていきましょう。
1.法定相続人を確定 |
|
2.相続財産を確定 |
|
3.必要な書類の手配 |
|
4.相続税申告書の作成 |
|
5.申告書の提出と相続税の納税 |
|
相続税の申告と納付は10か月以内に!
相続税には「基礎控除」という非課税枠があり、相続した財産が基礎控除額内に収まる場合は、相続税を申告する必要はありません。
基礎控除額=3,000万円+(法定相続人の数×600万円) |
また、相続税の申告と納付は故人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。
期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が請求され、もし悪質な脱税と判断されると、重加算税が課せられるので、注意が必要です。
申告と納付の期限は同じなので、なるべく早めに税務署で手続きを済ませましょう。
相続税以外もある!相続手続きの主な時効
①相続放棄
相続放棄の時効は3か月です。
また、手続きをしない場合は、すべての財産を相続する「単純承認」と判断されるでしょう。
②相続回復請求権
本来相続人ではない人が相続人だと偽り相続した場合、その財産を返してもらうために行使する権利を「相続回復請求権」と言います。
相続回復請求権は、相続権を侵害されていることを知った日から5年が時効です。
また、相続を侵害されていることを知らないまま相続の発生から20年経ってしまうと、相続回復請求権自体がなくなってしまいます。
③遺産分割請求権
遺産分割請求権は、遺産分割協議を行うことを提案する権利のことです。
遺産分割には期限がないため、遺産分割請求権にも時効はありません。
④生前贈与の贈与税申告
贈与税の申告の時効は6年です。
贈与された日の翌年3月15日から数えて6年が除斥期間となっていますが、意図的に脱税をしていたり不正をはたらいたりした場合は、時効が7年に変わります。
⑤遺留分侵害請求権
遺留分侵害請求権は、相続する財産が法律で保障されている相続分を下回るような遺言が遺されていた場合に、不足分を取得するために行使する権利です。
これは、相続が発生したことを知ってから1年で時効となり、遺留分が侵害されていることに気付かないまま10年経つと、請求権は消滅します。
⑥不動産の相続登記
相続した土地の名義変更を行う相続登記には時効がありません。
とはいえ、名義変更をしないままだと売却ができなかったり、次の相続が発生した際に相続関係がややこしくなったりと、トラブルにつながる可能性もあるので、相続登記は早めに行うほうがよいでしょう。
相続に関する相談は?弁護士?or税理士?
相続についての相談をする窓口には、さまざまな種類があります。
相続財産の調査 | 相続税の申告手続き | 不動産の名義変更 | 遺産相続トラブルの交渉 | |
弁護士 | ◯ | × | ◯ | ◯ |
税理士 | ◯ | ◯ | × | × |
司法書士 | ◯ | × | ◯ | × |
行政書士 | ◯ | × | × | × |
銀行 | ◯ | × | × | × |
それぞれ専門が異なるので、相談したい内容によって相談先を選ぶとよいでしょう。
専門家を選ぶ基準は相続間の争いに発展するか否か
相続の相談先を選ぶ大きなポイントは、相続人同士での争いがあるかないかです。
|
また相談する費用は相談先によって大きく異なるので、相談先を選ぶ際の基準の一つとして、遺された財産の額で決めるのもよいでしょう。
相続のよくあるQ&A
Q.未成年や認知症の人が相続人の場合どうすればよいの?
未成年者や認知症の人は、判断能力が不十分だと考えられることから、法律行為である遺産分割協議への参加が認められていません。
一般的に未成年者や認知症の人に代わって行う法律行為は、「法定代理人」である親権者(未成年者の場合)や後見人(認知症の人の場合)が行います。
しかし遺産分割協議の場合は、法定代理人である親権者や後見人も同じく相続人である場合も多いので、利益相反が発生しないように「特別代理人」を立てなければなりません。
特別代理人は家庭裁判所に申し立てをし、申立人が選んだ候補者の中から家庭裁判所が選任します。
特別代理人になるための資格は特になく、相続人ではない親族や、友人が選ばれることがほとんどです。
また、相続に関して詳しい弁護士に特別代理人をお願いもできます。
Q.相続人が海外に住んでいる場合手続きの進行はどうなるの?
海外に住んでいる人も相続人であれば、相続は可能です。
遺産分割協議の場に直接行けなくても、オンラインや電話、メールで参加していると認められます。
ただし、遺産相続の手続きでは、遺産分割協議書や相続登記などさまざまな場面で印鑑証明や住民票が必要ですが、日本での住民登録がないと用意できません。
そのため、海外に住んでいる相続人はサインが本人のものであることを証明する「サイン証明書」を利用し、手続きを進めましょう。
遺産分割協議書など、サインの必要な書類を大使館や領事館に持っていき、その場でサインをして「サイン証明書」を発行してもらうことで、印鑑証明と同じ役割を果たしてくれます。
相続の流れについてのご相談は株式会社林商会へ
この記事では、相続の流れについてご説明してきました。
相続は手続きが非常に多く、年単位で時間を費やすため、ご自身だけで手続きを行なっていくことに不安を感じる方もいるかもしれません。
そのような不安は、ぜひ相続の専門家集団である林商会にご相談ください。
相続診断士、弁護士、司法書士などの専門家が、確かな知識と経験をもとに、丁寧に疑問解決へと導きます。
まずは無料相談、無料お問い合わせからお気軽にご相談ください。
まとめ
遺産相続の手続きは多岐にわたっていて、それぞれに期限や時効もあります。
すべて不備がないように行うのは難しいでしょう。
また、遺産相続が相続人の間でのトラブルに発展してしまうこともあるので、手続きはとてもデリケートな作業と言えます。
個人で行うのが難しい場合には、プロに相談してスムーズに遺産相続の手続きを進めましょう。