相続に際して「親が残した遺言で遺言執行者に指名されたけれど、何をしたらよいのかわからない」「遺言執行者が相続人である自分でもよいの?」と、戸惑う方も多く見られます。
遺言執行者には果たさなければならない役割がありますが、専門家への依頼も可能なことをご存じでしょうか。
この記事では、遺言執行者の役割や業務内容のほか、遺言執行者が相続人と同一人物の場合に注意すべきことについても解説します。
目次
【正しく理解しよう】遺言執行者について
遺言執行者とはどんな役割を果たす人?
遺言執行者とは、亡くなった人が残した遺言書の内容を実現させるために、必要な手続きを行う権限を持つ人です。
遺言執行者の選任には、「遺言者が遺言書に記載して指定する」「被相続人の死後に、利害関係者が家庭裁判所に申し立てをする」という2つの方法があります。
遺言執行者を必ず選任しなければならないケース
以下の2つの手続きは遺言執行者にしか行えないため、必ず選任しなければなりません。
遺言による子どもの認知
遺言によって、配偶者以外との間に生まれた子ども(婚外子)の存在を認知させる場合は、遺言執行者を選任する必要があります。
認知されていない婚外子には相続権がありませんが、「認知して遺産を残したい」と遺言を残すケースも少なくありません。
そのような場合、他の相続人の相続割合や相続順位が変動してトラブルになる可能性があるため、遺言執行者の選任が必要になるのです。
推定相続人の廃除
遺言者の生前に関係が良くない推定相続人がおり、遺言によって相続権を与えない旨を記載している場合も、遺言執行者の選任が必要です。
相続権を廃除される人とトラブルに発展する可能性もあり、手続きをスムーズに行うためにも遺言執行者を必ず選任しなければなりません。
遺言執行者の業務
遺言執行者の主な業務は、以下の通りです。
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なお、相続の内容によって遺言執行者の業務内容は異なります。
遺言執行者を選任するメリット
遺言執行者の選任には、2つのメリットがあります。
不動産の遺贈がスムーズ
遺言書によって第三者に不動産を遺贈することが指定されている場合、相続人が遺贈される人(受遺者)に対して移転登記手続きを行わなければなりません。
相続人全員の協力があれば手続きはスムーズに進みますが、なかには第三者への遺贈に不満を抱く相続人もいます。
遺言執行者を選任していれば、遺言執行者と受遺者のみの手続きで済むため、遺言執行者がいない場合に比べてスムーズに手続きを進めることが可能です。
相続人の中に第三者への遺贈を認めない人がいる場合は、遺言執行者の選任が重要な役割を果たします。
相続手続きの簡略化
遺言者の銀行の預貯金の払い戻しや解約、株式・不動産の名義変更などの相続手続きを行う際、相続人全員の実印や印鑑証明、住民票などが必要なケースが多く見られます。
相続人が多い場合には時間がかかるうえ、遠方に住んでいる相続人がいる場合はさらに時間がかかることも少なくありません。
遺言執行者を選任することで、相続人に代わって各種相続手続きを進められます。
相続人が多忙なことも多いため、負担を減らす意味でも遺言執行者の選任はメリットがあると言えます。
遺言執行者になれるのはどんな人?
遺言執行者になるための要件は特に定められておらず、破産者や未成年者以外であれば誰でもなれます。
相続人から選ぶと決まっているわけではないため、周りにふさわしい人がいない場合や膨大な相続手続きが予想される場合は、専門家への依頼も可能です。
遺言執行者は相続人と同一人物でもOK?
相続人を遺言執行者として選任することは可能なのか、遺言執行者選任における注意点とあわせて解説します。
遺言執行者と相続人は同一人物でもOK!
法律上、相続人と遺言執行者が同一人物でも問題ありません。
多くの場合は、遺言者の身近にいる家族や遺言作成に関わった弁護士が選任されます。
しかし、相続人が2名以上いる場合にそのうちの1人が遺言執行人に選任されると、トラブルに発展するリスクが高まります。
遺言書は必ずしも平等な内容で記載されているわけではないため、公平性を保つためにも、遺言執行者の選任は慎重に行いましょう。
【必読】遺言執行者と相続人が同一人物の場合に注意すべきこと
遺言執行者が相続人と同一人物である場合、法律上の問題はありませんが、遺言執行者と他の相続人の間でトラブルに発展することもあるため、注意が必要です。
遺言執行者に選ばれなかったり、法定相続分を下回る遺産しか相続できなかったりする人は、不満を抱く可能性があります。
遺言執行者に選任された相続人は相続分が多いケースが大半なため、自分に利益があるように仕向けたのではないかと他の相続人に疑われないよう、言動には気を付けましょう。
また、手際の悪さや手続きの遅れもトラブルのもとになってしまうため、注意が必要です。
遺言執行者は辞任や解任ができる
遺言執行者は、家族や親戚、専門家のいずれも辞任や解任ができます。
遺言執行者本人の意向や相続人が辞めさせたい場合のいずれも、家庭裁判所の許可を得ることで辞任や解任が可能です。
以下では、それぞれの手続き方法について解説します。
遺言執行者の辞任
遺言執行者は、正当な理由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得たうえで辞任できます。
長期出張や入院、多忙な仕事などの正当な理由は認められますが、単に「思った以上に大変だったから」「面倒だから」という理由は認められません。
もちろん、遺言執行者を依頼された時点で引き受けることが難しいと判断した場合は、辞退が可能です。
遺言執行者の解任
遺言執行者が業務を怠っているなど正当な理由がある場合は、相続人や受遺者が家庭裁判所に申し立てを行い、遺言執行者を解任できます。
たとえば、以下のようなケースです。
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申し立てができるのは、相続人や受遺者など遺言執行者の怠惰の影響を受ける人です。
また、遺言執行者の解任の流れは以下の通りです。
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解任の審判が確定するまでの間に遺言執行者の業務を停止させたい場合は、解任の申し立てとあわせて、遺言執行者の職務執行停止の審判の申し立てを行う必要があります
遺言執行者は専門家に依頼できる
遺言執行者は、家族や親戚に限らず、専門家への依頼が可能です。
専門家に依頼するメリットや注意点、費用の目安について解説します。
遺言執行者が遺言執行業務を依頼できる
遺言執行者は、遺言執行業務を弁護士や税理士、行政書士などの専門家に依頼することができます。
よくわからないまま遺言執行者を引き受けてしまっても、復任権があるため専門家に業務を任せることが可能です。
遺言執行者を専門家に依頼するメリット
遺言執行者を専門家に依頼するメリットは、以下の4つです。
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未経験の相続人が遺言執行者になると、あまりの業務の膨大さに精神的負担を感じてしまうことも多いのが現状です。
業務の手間や精神的負担から解放されることは、大きなメリットと言えるでしょう。
専門家に依頼する際の注意点
遺言執行者を専門家に依頼する際は「相続に強いかどうか」が重要なポイントです。
同じ資格を持っていたとしても得意分野や費用が異なるため、事前に確認しておきましょう。
遺言書に遺言執行者の報酬について記載がある場合は、その範囲内で依頼し、記載がない場合は、相続人同士で協議したり家庭裁判所に決めてもらったりすることもできます。
遺言書に記載する場合は、遺言執行者に指定する専門家の報酬額を確認したうえで記載しましょう。
なお、報酬の支払いは、遺言執行者の業務終了後に遺産から支払うケースが一般的です。
専門家に依頼する際の費用の目安
専門家ごとに、遺言執行者を依頼する際の費用が異なります。
それぞれの費用の目安について、みていきましょう。
弁護士
弁護士の場合は、日弁連による「報酬等基準規定(旧規定)」を参考に報酬額を決めている事務所がほとんどです。
相続遺産の価額 | 弁護士の報酬額 |
300万円以下 | 30万円 |
300万円超3,000万円以下 | 24万円+2% |
3,000万円超3億円以下 | 54万円+1% |
3億円超 | 204万円+0.5% |
行政書士
「基本料金20万円前後+遺産額の0.5〜1%前後」が相場です。
遺言執行者を専門家に依頼する際、最も安価な士業が行政書士と言われています。
司法書士
「基本料金25〜30万円+遺産額の0.5~2%前後」が相場です。
相続財産に不動産が含まれる場合は、不動産評価額や相続登記の数によって別途費用が発生するため、確認することをおすすめします。
税理士
「基本料金50万円程度+遺産額の0.5〜2%前後」が相場です。
税理士に依頼すると、相続税対策を考慮した遺言作成や相続税申告ができるメリットがあります。
遺言執行者がいる場合、遺言と異なる遺産分割はできる?
遺言執行者がいる場合、遺言と異なる遺産分割ができるのかどうか、3つのケース別に解説します。
相続人全員の同意がある場合
遺言執行者がいる場合、相続人全員の同意があっても、受遺者の同意がなければ遺言と異なる遺産分割はできません。
相続人は受遺者の利益を一方的に侵害できず、遺産分割協議は無効になるためです。
仮に相続人が受遺者に無断で遺産分割協議を行なった場合、受遺者への移転登記の前に協議に基づいた移転登記を行うことは可能です。
しかし、いずれ遺言執行者によって削除されるため、この移転登記は無効になります。
相続人全員・受遺者・遺言執行者の同意がある場合
相続人全員に加え、受遺者・遺言執行者の同意がある場合は、遺言と異なる遺産分割が可能です。
遺言執行者が遺言の内容に反した遺産分割を行うことは、義務を遂行していないと捉えられますが、相続人全員と受遺者の同意がある場合に限り免除されます。
遺言執行者の同意がない場合
相続人全員と受遺者の同意が得られたものの、遺言執行者の同意がない場合、以下の2つに見解が分かれています。
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スムーズな相続のためにも、遺言と異なる遺産分割を行いたい場合は遺言執行者の同意を得ておく必要があると言えます。
遺言執行者のご依頼やご相談は林商会にお任せください!
亡くなった人の意思を反映する遺言の内容を実現する存在として、遺言執行者は非常に重要な役割を果たします。
相続人が遺言執行者になることは可能ですが、負担も大きいうえに相続人同士のトラブルに発展しかねないため、専門家に依頼するのがおすすめです。
林商会には、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など相続の専門家が在籍しており、専門知識と豊富な経験に基づいた丁寧な対応に定評があります。
遺言執行者や遺言書作成、遺言執行業務のご依頼やご相談も多数の実績を誇る林商会に、まずは無料相談からお気軽にご連絡ください。
まとめ
遺言執行者は相続人と同一人物でも選任できますが、業務の負担や公平性を考慮すると、専門家に依頼するのがおすすめです。
もちろん家族や親戚が行うこともできますが、誰か1人の負担にならないよう協力体勢を整えておきましょう。
今回の記事を参考に、遺言執行者の選任について話し合ってみてはいかがでしょうか。