相続税は被相続人が遺した財産(相続財産)に課せられる税金です。
しかし実は、民法上の相続財産に含まれない「みなし相続財産」も相続税の対象だということを知っていましたか?
そのため相続税を計算する際は被相続人の相続財産だけでなく、みなし相続財産についても把握しておく必要があります。
この記事では、みなし相続財産に該当するものや、知っておくべきポイントについて解説するので参考にしてください。
目次
【みなし相続財産の基礎知識】相続財産との違いは何?
みなし相続財産とは
みなし相続財産とは、相続や遺贈によって継承されたものではありませんが、相続や遺贈によって継承されたものと同様の経済効果がある財産です。
民法上の相続財産ではないものの、相続税を計算する際は、相続財産とみなして相続税を課税します。
簡単にいうと、被相続人が亡くなったタイミングで受け取る財産のことで、被相続人が持っていた財産ではなく、勤務先や保険会社から受け取る財産と考えるとわかりやすいでしょう。
みなし相続財産は民法上の相続財産ではありませんが、被相続人が亡くなったことで財産となるため、遺産相続と同様に相続税が発生します。
相続財産との違い
相続財産とみなし相続財産の違いは、その目的にあります。
相続に関して定めている民法では、相続を「より公平な遺産分割が実現すること」を目的としているのに対し、みなし相続財産は相続税法上の考え方であり「公平で適正な納税」を目的としています。
そのため、相続財産とみなし相続財産では、対象となる財産の種類が異なります。
相続財産には、現金、預貯金、有価証券、土地や家、著作権や特許権など、金銭で見積もることができる価値のあるものすべてが対象です。
一方のみなし相続財産は、相続、遺贈によって継承されたとみなされる財産で、生命保険金や死亡退職金などが該当します。
【必読】みなし相続財産について知っておくべきポイント
みなし相続財産について知っておくべき6つポイントを紹介します。
相続放棄をしても受け取れるが相続税が課税される
みなし相続財産は、相続放棄しても受け取ることができます。
これは、みなし相続財産が民法上の相続財産ではないからです。
被相続人が亡くなったことをきっかけに継承する財産のため、受取人になっていれば、相続放棄をしても受け取ることができます。
しかし、相続放棄をしていると相続税の非課税枠を使えないため、相続税が課税される点には注意が必要です。
生命保険料の負担者によってかかる税金が違う
被相続人が亡くなった場合、生命保険金がみなし相続財産として受け取れます。
生命保険金は、生命保険料の負担者によって税金の種類が異なるため、注意が必要です。
被相続人が生命保険料負担者だった場合は相続税が発生しますが、被相続人以外が生命保険料負担者だった場合は、所得税などが発生します。
被保険者 | 生命保険料の負担者 | 生命保険料の受取人 | 税金の種類 |
被相続人(父) | 被相続人(父) | 相続人(妻) | 相続税 |
被相続人(父) | 相続人(妻) | 相続人(妻) | 所得税(一時所得) |
被相続人(父) | 相続人(妻) | 相続人(子) | 贈与税 |
基本的に遺産分割の対象外
みなし相続財産はあくまで税法上の考え方であり、相続税法は遺産分割を定めるものではありません。
遺産分割とは、相続人の間で相続財産を誰がどのように取得するかを協議し、分割することです。
被相続人が遺言を残さずに亡くなった場合や、遺言以外の方法で相続財産を分割する場合、通常は遺産分割協議を行います。
しかし、みなし相続財産は民法上の相続財産ではないことから、遺産分割の対象にはならないのです。
たとえば、生命保険の受取人が受け取った保険金は、受取人固有の財産であるため、相続人の間で分割する必要はありません。
遺産分割のトラブルになりやすい
みなし相続財産は、遺産分割のトラブルを引き起こす原因となるケースも少なくありません。
たとえば長男と次男2人に遺産を分割する場合、長男には土地と家、車を、次男には現金として生命保険金、死亡退職金の受取人指定をしていたと仮定します。
長男は遺言どおり土地や家、車を受け取りますが、次男は民法上の相続財産がない状態です。
そのため、次男は生命保険金と死亡退職金を受け取ったうえで、土地、家、車など相続財産の遺留分の請求ができてしまいます。
このように、相続財産とみなし財産のバランスを考えていないと、遺産分割のトラブルになってしまうのです。
トラブルを引き起こさないためにも、相続財産やみなし相続財産についての知識をしっかりと身に付けておきましょう。
配偶者や子・親以外が受け取ると相続税が2割加算
みなし相続財産の受取人が「配偶者や子・親」以外に指定されている場合、相続税が2割可算されます。
たとえば、受取人が「孫」の場合です。
非課税枠が使えないうえに相続税を2割増で支払うことになるため、受取人を誰にするかは、慎重に考える必要があります。
原則として遺留分の対象外
みなし相続財産は、原則として「遺留分の対象外」です。
以下の判例文で、みなし相続財産が遺留分の対象にならないことが明示されました。
被相続人を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる。
引用:平成16年10月29日 最高裁判所判例集|裁判所
この裁判では、生命保険金の相続を「特別受益」として遺産分割に組み込むべきであるという原告の主張を棄却しました。
つまり、みなし相続財産は、遺留分には含まれないということです。
しかし、生命保険金の相続人と他の相続人の間に著しい不公平が生じた場合は、生命保険金を固有の財産とすることはできず、みなし相続財産も遺留分の対象となることも書かれています。
みなし相続財産は原則として遺留分には含まれないものの、場合によっては遺留分の対象となるため注意しましょう。
みなし相続財産にあてはまる2つの代表例
みなし相続財産の代表例として、生命保険金と死亡退職金が挙げられます。
それぞれの特徴についてみていきましょう。
①生命保険金
被保険者が亡くなった場合に保険会社から受け取れる生命保険金(死亡保険金)は、みなし相続財産の代表例の一つです。
生命保険金は、被相続人がもともと持っていた財産ではなく、あくまで保険契約に基づいて支払われ、受取人の固有の財産として扱われます。
みなし相続財産として扱われる生命保険金は、以下の3つの要素を満たす必要があります。
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ここで重要なのは、「被保険者が生命保険料を負担していた」ということです。
先述した通り、受取人が保険料を負担していた場合は、一時所得として所得税の課税対象となり、受取人が保険料を負担していた人以外の場合は、贈与税が課税されます。
生命保険料の負担者や生命保険の受取人によって、税の種類が異なるため注意しましょう。
また、被相続人が保険料の全額を負担していた場合、受け取った生命保険金全額が課税対象です。
その一方で、被相続人が負担した生命保険料が一部であった場合は、次の式で課税金額を計算できます。
「取得した生命保険金額×被相続人が負担した生命保険料の金額/保険契約に基づき被相続人の死亡時までに払い込まれた保険料の総額」
②死亡退職金
死亡退職金も、みなし相続税の代表例として挙げられます。
死亡退職金とは、亡くなった人が勤めていた会社から支払われる退職金のことです。
被相続人が亡くなったことにより、本来被相続人が受け取るはずの退職金を、みなし相続財産として相続人が受け取れます。
死亡退職金の対象は、「被相続人の死亡後の3年以内に支払いが確定した金額」であり、死亡退職金をみなし相続財産として受け取る場合、相続税の課税対象です。
3年前を超えて取得した場合、一時所得として所得税の対象となります。
死亡保険金と死亡退職金には非課税枠がある
生命保険金と死亡退職金には、それぞれ非課税枠があります。
「500万円×法定相続人の数」で算出された金額を超えない場合は、相続税が課税されません。
法定相続人の考え方は基礎控除と同じで、以下のように民法で定められています。
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また、相続放棄をした場合でも生命保険金の受け取りが可能です。
しかし、非課税枠を使えるのは生命保険金を相続した人のみで、相続放棄をした人が生命保険金を受け取っても非課税枠を使用できないため、注意しましょう。
その他のみなし相続財産にあてはまるもの
生命保険金と死亡退職金の他にも、いくつかのみなし相続財産があります。
弔慰金
弔慰金(ちょういきん)は死亡弔慰金とも言われ、企業や団体の雇用主が故人の遺族に対して払う金銭です。
勤務年数や役職などの企業が独自に定めた条件に従って支払われます。
企業の従業員だけでなく、従業員の家族が亡くなった際に弔慰金を支払う企業も少なくありません。
弔慰金の他にも、花輪代金や葬祭料が一定の金額を超える場合、以下の条件で死亡退職金として扱われます。
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定期金に関する権利
定期金に関する権利とは、個人年金など、ある期間にわたって定期的に金銭が支給される権利のことを言います。
被相続人が個人年金保険料を支払い、死亡時の受取人を配偶者や子どもに指定していた場合、みなし相続財産として受け取りが可能です。
また、被相続人の死亡時に年金の給付が確定していなかった場合でも、相続人の権利となるため、相続税が課せられます。
特別縁故者への分与財産
特別縁故者とは、被相続人に法定相続人がいない場合に、相続を受ける権利が発生した人を言います。
被相続人には、必ずしも相続人がいるわけではありません。
そのような場合、知人や生前に世話をしていた親しい人は「相続財産管理人選任の申し立て」と「特別縁故者への財産分与審判の申し立て」を行い、特別縁故者として認められれば、財産の分与を受け取れます。
特別縁故者として財産分与された場合は、遺贈による取得として相続税の課税対象です。
また、みなし相続財産を配偶者や子・親以外の人が受け取る場合に該当するため、2割増しの金額が課税される点に注意しましょう。
公共法人等から受ける利益
地方公共団体や国立大学法人などの公益を目的とする法人で、施設の利用料や余裕金などを特定の人に特別な利益として与える場合、みなし相続財産として受け取ることができます。
信託受益権
信託受益権とは、被相続人が金融機関に預けて運用・管理していた投資信託などの利益を受け取る権利です。
相続人が信託受益権を受け取る場合、みなし相続財産として相続税が課せられます。
債務の免除
被相続人に対する債務が遺言で免除された場合や、遺産で第三者から債務を肩代わりしてもらった場合は、免除された債務に相当する金額をみなし相続財産として扱います。
もちろん、債務が免除された場合も相続税の課税対象です。
被相続人の死亡前3年以内に贈与された財産
被相続人が死亡する3年以内に贈与された財産も、みなし相続財産に該当します。
死亡前に身内に贈与することで相続税の課税を免れようとするケースもありますが、被相続人の死亡前3年以内に贈与を受けた財産に対しても相続税の納税が必要です。
また、被相続人から贈与されたものがみなし相続財産に該当しない場合でも、相続時精算課税制度を利用していた場合は、その贈与時の価格が相続財産に加算されます。
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ここまで、みなし相続財産について解説してきました。
みなし相続財産をしっかり把握していないと、適切な相続税申告ができない事態になりかねません。
相続手続をスムーズに行うためにも、専門知識や経験が豊富な相続の専門家に任せるのがおすすめです。
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まとめ
みなし相続財産は、民法上の相続財産ではないものの、相続税が課税されます。
ただし、みなし相続財産の代表例である生命保険金や死亡退職金には非課税枠が存在するため、課税対象にならない場合もあります。
相続税を計算するときは、相続財産だけでなくみなし相続財産もしっかり把握しておきましょう。