相続方法には「限定承認」「単純承認」「相続放棄」の3種類があります。
なかでも「被相続人の債務額がわからない!」「どうしても確保したい財産がある!」という場合には相続の限定承認が有効です。
本記事では限定承認と単純承認・相続放棄との違いをまとめたうえで、手続きの流れや踏まえておきたい注意点などを解説しています。
相続方法を決めかねている方や、手続き方法を知りたい方はぜひ参考にしてください。
目次
【比較】限定承認と単純承認・相続放棄とはそれぞれ何が異なる?
相続には「限定承認」「単純承認」「相続放棄」の3種類の方法があります。
相続の権利があるからといって、必ずしも相続する必要はありません。
被相続人の財産や相続内容を把握した上で、「相続を実施するかどうか」・「どの方法で相続するか」を決定しましょう。
それぞれ特徴についてまとめて解説します。
制度と手続きの概要
「限定承認」「単純承認」「相続放棄」についての制度・手続きの概要は以下のとおりです。
限定承認 | 単純承認 | 相続放棄 | |
制度の概要 | 相続で得た財産の範囲内で負債を引き継ぐ相続方法 | 負債も含めた相続財産をすべて引き継ぐ相続方法 | 全ての相続財産を引き継がない相続方法 |
相続財産がプラスになる場合 | 引き継ぐ | 引き継ぐ | - |
相続財産がマイナスになる場合 | プラスの相続財産の範囲内で引き継ぐ | 引き継ぐ | - |
参加の必要がある相続人 | 相続人全員 | - | 相続放棄を希望する相続人 |
手続きの概要 |
|
必要なし |
|
適しているケース
「限定承認」「単純承認」「相続放棄」が適しているケースを以下の表にまとめました。
限定承認 |
|
単純承認 |
|
相続放棄 |
|
被相続人の財産のうち「負債がどの程度あるのか」が相続方法を選択する際のポイントといえるでしょう。
相続の限定承認のメリット/デメリット
相続の方法で迷ったら、メリットとデメリットを確認しておくと自分に合った相続方法が見つかるかも知れません。
限定承認のメリットとデメリットについて詳しく解説します。
相続の限定承認の3つのメリット
相続の限定承認のメリットは以下の3つです。
|
相続財産の範囲を超える債務は相続しなくてよい
限定承認の最大のメリットは、相続財産を上回る債務の返済はしなくてもよい点です。
単純承認の場合、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続することになるので、マイナスの財産が多い場合は借金だけが残る可能性もあります。
一方、限定承認の場合は、プラスの財産以上の負債を引き継ぐ必要がないため、手元に残る遺産は無くなる可能性もありますが、借金だけが残ることも防げます。
財産や借金の詳細がはっきりしないなら、限定承認を選択すればリスクを回避できるでしょう。
先買権を利用可能
限定承認では、「先買権(さきがいけん)」と呼ばれる制度が利用できます。
「先買権」は、実家の建物のような不動産や家宝など、どうしても相続したい財産がある場合に優先的に購入できる制度です。
家庭裁判所が選任した鑑定人の評価を基準とし、提示された評価額を支払うことで優先的に取得できます。
なお、相続人がその評価額を支払うことができなければ先買権の行使はできないので注意しましょう。
申述後に発見されたプラスの財産を相続可能
限定承認では、申述後にプラスの財産が発見されてもその財産を相続できます。
仮に相続放棄を選択していれば、後に発見された財産も相続できません。
相続の限定承認の3つのデメリット
相続の限定承認には、以下のようなデメリットもあります。
|
共同相続人全員の同意が必要
相続人が複数いるケースでは、共同相続人全員の同意が得られた場合のみ限定承認を選択できます。
もし1人でも反対する相続人がいれば、限定承認は行えません。
相続人同士が不仲でありトラブルを抱えている場合は、限定承認を選ぶのは難しいでしょう。
手続きの負担が大きい
限定承認は、プラスの財産とマイナスの財産とを清算する手間がかかります。
そのため、申述を行えば手続きが終了というわけではなく、その後も公告・弁済といった手続きまで済ませてはじめて完了となります。
手続きには時間と労力、費用もかかるので、単純承認や相続放棄と比べて負担が大きいといえます。
準確定申告が必要な場合がある
限定承認を行うと、被相続人の準確定申告が必要になる可能性があります。
準確定申告とは、被相続人の生前の収入に対して、「相続人が代わりに行う確定申告」のことです。
限定承認を行う際、相続財産を売却・換価して債務の弁済に充てるケースが多いですが、財産の清算に伴い、被相続人に対して「みなし譲渡所得税」がかかることがあります。
譲渡所得税は、一般的には資産を譲渡することで生じる「譲渡益」に対して課税されるものです。
相続財産の場合も、土地や株式などの値段が変動するものがあれば、実際に売却しなくともその含み益に対してみなし壌渡所得税がかかります。
ただし、限定承認では債務と売却益が相殺されることが多く、譲渡所得税がかからないこともあります。
限定承認を選択する際は、準確定申告が必要かどうかも事前に確認しましょう。
【要確認】相続の限定承認を選択するべきケース
相続の限定承認について、メリットとデメリットを考慮して考えると、選択した方がよいケースがいくつかあることが分かります。
ここからは、限定承認を選択するべきケースを3つ具体的に紹介します。
債務額が不明確な場合
被相続人に借金がいくらあるのか不明確な場合は、限定承認を選択するのがよいでしょう。
例えば、多額の借金が発覚した場合でも、相続範囲内での返済となるので、相続人自身の財産から返済する義務はありません。
また、清算後に残った財産を相続人が取得できるというメリットもあります。
次の例で考えてみましょう。
|
この場合、債務1,000万円のうち返済義務があるのは200万円なので、残りの800万円の債務
については返済する必要はありません。
|
この場合、プラス財産の1,000万円から200万円の債務返済後、残額のプラス財産800万円を取得できます。
確実に受け継ぎたい相続財産(実家・家宝など)がある場合
財産の中にどうしても確実に受け継ぎたい財産(実家や家宝など)がある場合は限定承認がおすすめです。
限定承認は、特定の財産を優先的に取得できる「先買権」を利用できます。
相続負債の心配はあるものの、手放したくない財産がある場合に適しています。
事業継承したい場合
限定承認は、債務整理をしたうえで家業の引継ぎが可能です。
一般的に、事業用の財産を相続するにはその他の相続人が相続放棄する必要がありますが、相続人全員が合意している場合は限定承認を検討するのがよいでしょう。
【3ステップ】相続の限定承認手続きの流れ
相続の限定承認手続きには3つのステップがあります。
手続きの具体的な流れをみていきましょう。
①家庭裁判所で申述書類を提出
最初のステップとして、家庭裁判所に申述書類を提出します。
その際の申述人や申述先、申述期間及び必要書類について確認しておきましょう。
申述人
限定承認の申述には相続人全員が共同で行う必要があります。
相続人のうち1人でも反対する人がいれば、限定承認の申述はできません。
ただし、相続放棄をした相続人がいる場合は、相続放棄をした相続人以外の全員で申述します。
申述先
被相続人の最後の住所地(相続開始地)を管轄する家庭裁判所が申述先です。
本籍地を管轄する家庭裁判所ではないので注意しましょう。
申述の期間
相続の開始を知ってから3か月以内に手続きをするのが原則です。
ただし、この期間内に相続内容が決定できない事情のある場合、「相続承認または放棄の期間の伸長の申立て」ができます。
これにより、3か月の延長が可能です。
申述時の必要書類
申述時に必要な書類は以下の通りです。
|
②公告
限定承認の要件を満たしていると判断されると、申述書の受理に関する審判が実施されます。
受理された場合は申述人に受理されたことを証明する通知書が届きます。
これを受け、申述の受理より5日以内(相続財産管理人が選任された際は10日以内)に公告・催告する必要があります。
公告とは、限定承認したこと、債権者と受遺者が公告期間内に債権を請求するべきことを官報に掲載して知らせることを指します。
この場合、公告期間は2か月以上に設定しなければなりません。
また、債権者や受遺者が誰かを特定できている場合は、公告に加えて、請求を申し出るよう個別に通知して催告する必要があります。
③債権者等への弁済・清算
官報への公告の手続きが完了すれば、続いて債権者や受遺者に弁済するための財産の換価処分を行います。
弁済するために相続財産を売却する場合、財産の換価方法は裁判所を通した競売が原則です。
先買権を利用して特定の財産(実家や家宝など)を取得したいならば、家庭裁判所が選定した鑑定人の提示する評価額を支払う必要があります。
公告期間を過ぎたあとは、相続人は届出のあった責任者に対して債権額の割合に応じた返済を行い、残った金額は相続人に戻ります。
相続の限定承認にかかる費用はいくら?
相続の限定承認にかかる費用は自分で申述する場合と弁護士に相談した場合とで異なります。
自分で申述する場合
自分で申述する場合、以下の費用がかかります。
|
書類の収集費用
申述のために共通して必要となる書類と取得のための費用は以下の通りです。
|
申述人の人数分必要な書類もあるので、おおよその費用を計算しておくとよいでしょう。
なお、被相続人と申述人の関係によっては必要な書類が異なる場合があります。
印紙・切手代
印紙代は1件につき800円分必要です。
返信用の郵便切手代は申述先の裁判所によって異なるので、申述先の家庭裁判所に確認してください。
公告費
家庭裁判所に限定承認の申述が受理された後、官報へ公告するためには費用がかかります。
1行単位で料金が定められていますが、4万円程度になることが多いです。
弁護士に依頼する場合
弁護士に依頼する場合、以下の2種類の依頼形態によって費用が変わります。
|
定額型
報酬として一定額の報酬を支払う形式を定額型と呼びます。
一定額の報酬に加え、手続きに必要な書類取得にかかる手数料や公告費用の実費を加えた額を支払います。
成功報酬型
成功報酬型は、着手金および成功の程度に応じて費用が発生します。
成功報酬は、一般的に10万円~50万円程度が多いですが、残った財産の10%という具合に、経済的利益(弁護士に依頼したことで得られた金額)によって割合が変わります。
着手金や成功報酬については弁護士事務所によっても異なるので、事前に確認しておくと安心です。
限定承認にかかる「みなし譲渡所得税」
通常、財産を譲渡した場合、得た所得に対して譲渡所得税が課税されます。
一方、「みなし譲渡所得税」とは、 譲渡所得が生じていない場合でも、譲渡所得が生じたとみなして課税される所得税のことです。
みなし譲渡所得税は、被相続人の遺産から支払うのが一般的です。
【要チェック】限定承認を実施する際の注意点
限定承認を選択するにあたり、注意点がいくつかあります。
必ず確認してから申述するようにしましょう。
期間内に手続きを完了する
限定承認の手続きは、相続人が相続の開始(被相続人の死亡)を知った日から3か月以内に行わなければなりません。
自分が法定相続人であることを知らなかった場合でも、死亡の事実を知らなかったわけではないため、死亡日が起算日となることがほとんどです。
期限を過ぎると単純承認したものとみなされ、限定承認を行うことができなくなります。
負債が多いなどの理由で限定承認を行うか迷っている場合は、早めの検討を心掛けましょう。
限定承認の手続きには、必要書類などの準備に時間を要するため、余裕をもって取り掛かることが大切です。
また、準確定申告の期限は相続開始から4か月以内なので、併せて注意しておきましょう。
手続き完了前に相続財産を処分しない
限定承認を行う場合、手続きが終わる前に相続財産を処分してはいけません。
被相続人の預貯金の解約や、不動産の売却といった処分行為があった場合は、単純承認したとみなされ、限定承認や相続放棄の手続きが一切できなくなります。
必ずしも限定承認が最適ではないことを踏まえる
限定承認にはメリットもありますが、デメリットもあります。
相続する内容によっては、必ずしも限定承認が最適ではない場合があることもあるので、慎重に検討するようにしましょう。
限定承認の疑問や相続税についてのご相談は林商会にお任せください!
今回の記事では相続の限定承認について解説しました。
限定承認は、債務負担を軽減しつつ必要な財産を確保できるため、状況によっては非常に有効な手段です。
とはいえ手続きの負担が大きく共同相続人の同意も必要なことから、実施者自身に「相続を正しく理解していること」が求められます。
手続きミスや他の相続人とのトラブルを避けるためにも、不安や疑問点がある場合は専門家に相談するのがよいでしょう。
林商会には相続に特化した弁護士・税理士が多数在籍しており、あらゆるお悩みに最善の解決策をご提案します。
無料相談も承っておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
まとめ
限定承認は、相続する負債額が分からない場合やどうしても確保したい財産がある場合の相続方法として有効な手段です。
申述手続きが複雑なうえ期限もあるので、限定承認を行うなら余裕をもって準備することをおすすめします。
その際は、注意点をいまいちど確認してから臨みましょう。