税務署から「相続税についてのお知らせ」が届いたけれど、自分は申告が必要なのかどうかや手続き方法がわからない…という方も多いのではないでしょうか。
「相続税についてのお知らせ」は相続税申告の可能性が高い人に送付されます。
この記事では、申告が必要かどうかの確認の手順や計算方法、自分で申告を行う場合の手続きの流れや専門家に依頼する場合について解説します。
目次
【はじめに】まずは相続税の申告が必要かどうかを確認しよう
相続税の申告が必要かどうか確認する手順をお伝えします。
【ステップ1】法定相続人の数を確定する
まずは法定相続人の数を確定しましょう。
法定相続人とは、「民法で定められた被相続人の財産を相続できる人」であり、被相続人の配偶者と被相続人の血族でもあります。
法定相続人について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
【ステップ2】基礎控除を計算する
相続税の基礎控除とは、相続する遺産が一定の金額以下の場合、相続税を納める義務がない=控除される制度を言います。
相続税に設定された基礎控除額の計算式は下記の通りです。
● 基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数 ) |
たとえば、法定相続人が1人なら基礎控除額は3,600万円です。
相続税の基礎控除について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
【ステップ3】すべての相続財産をリストアップする
被相続人の資産や負債・権利義務などすべての相続財産をリストアップします。
ただし、すべての財産が相続財産に該当するわけではありません。
・相続財産に該当するもの(プラスの財産・マイナスの財産)
被相続人の預貯金・不動産・証券・貴金属・ゴルフ会員権などプラスの財産だけでなく、住宅ローンの残債・借金・滞納税・滞納家賃などマイナスの財産も相続財産に該当します。
相続財産に該当しないもの
被相続人の資産・負債・権利義務のうち、相続財産に該当しないものは下記の通りです。
● 年金請求権 ● 養育費請求権 ● 宗教や神事に関する祭祀財産(お墓・仏壇・神棚・位牌など) |
相続税の対象となる「みなし相続財産」に注意!
みなし相続財産とは、民法上は相続財産に該当しないが、相続税法では相続財産として扱われて相続税の課税対象になる財産のことです。
みなし相続財産には主に下記のものが該当します。
● 死亡保険金 ● 生命保険契約に関する権利 ● 定期金に関する権利 ● 死亡退職金 ● 特別縁故者への相続財産の分与 ● 特別寄与者が支払いを受ける特別寄与料 ● 低額譲受(資産を著しく低い価格で譲り受けること) ● 債務免除による利益 ● 被相続人の死亡前3年以内に相続人へ贈与された財産 |
相続税から差し引けるもの
相続税の算出にあたり、財産額から差し引くことができるものは下記の通りです。
● 銀行・金融機関からの借入金 ● 滞納税 ● 預かり敷金 ● 葬儀費用 |
【ステップ4】相続財産の総額を計算する
被相続人の預貯金・不動産・証券など、プラスの財産とみなし相続財産から借金などのマイナスの財産を差し引き、相続財産の総額を計算しましょう。
【確認しよう!】「基礎控除額>相続財産」なら申告は不要
相続税は、相続財産の総額からステップ2で算出した基礎控除額を除いた金額に課税されます。
そのため、相続財産から基礎控除額を差し引くとマイナスになる場合、相続税は発生せず、申告も不要です。
もしも相続財産から基礎控除額を差し引いてプラスになった場合は、その金額に対しての相続税の申告が必要です。
申告が不要かどうかを判断するときの注意点
申告が不要かどうかを判断するときの4つの注意点をご説明します。
相続財産に見落としがないか
相続財産に見落としがあると追徴課税が発生するなどトラブルになるため、注意しましょう。
見落としがちな財産は下記の通りです。
● 名義預金(被相続人が配偶者・子ども・孫などの名義で開設した口座預金) ● タンス預金・へそくりなど ● 美術品・骨董品・宝石など ● 死亡直前に出金した預金 |
相続時精算課税制度を利用したか
相続時精算課税制度は、生前贈与した財産に対して2,500万円までは贈与税を課税せず、相続の際に精算して相続税を課税する制度です。
そのため、相続時精算課税制度を利用して課税時期を先送りした場合、相続財産が基礎控除内でも、相続の際には贈与した財産にも相続税が課税される可能性があります。
被相続人が亡くなる前3年以内に贈与はないか
被相続人が亡くなる前3年以内に贈与された財産は課税対象です。
民法上は相続財産に該当しませんが、相続税法では相続財産とみなされる「みなし相続財産」に該当します。
未成年者控除・障害者控除・相次相続控除を適用した場合
未成年者控除・障害者控除・相次相続控除を適用した場合、税額控除として、本人の相続税額から控除されます。
控除後の相続財産から基礎控除額を差し引くとマイナスになる場合には、相続税は発生せず申告も不要です。
注意!相続税はゼロでも申告が必要な場合もある
相続税がゼロでも、下記の場合は申告が必要です。
● 配偶者の「税額軽減の特例」の適用を受ける ● 小規模宅地等の特例の適用を受ける |
相続税の申告は、これらの特例の適用を受けるための条件の一つです。
したがって、相続税はゼロだからといって税務署に対して相続税の申告をしなければ、これらの特例は適用されません。
相続税の申告を自分で行う場合の手続きの流れと注意点
ここでは、相続税の申告を自分で行う場合の手順と注意点をお伝えします。
相続発生から相続税申告までの流れ
相続発生から相続税申告までの大まかな流れは下記の通りです。
続発生からの期限 | 主な手続き内容 |
なるべく早く | ● 相続人の確定
● 遺言書の調査・検認 ● 故人の財産調査など |
10日以内
(国民年金は14日以内) |
● 健康保険証の返却※国民健康保険
● 介護保険の資格喪失届 ● 住民票の抹消届・住民票の除票の申請など |
3か月以内 | ● 相続放棄・限定承認など |
4か月以内 | ● 故人の所得税の確定申告 |
10か月以内 | ● 相続税の申告 |
相続税の申告や相続に関する手続きについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内
相続人は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告を行わねばなりません。
申告が遅れてしまったり意図的に申告しなかったりすると、無申告加算税や延滞税といったペナルティを課せられるため、注意しましょう。
相続税の申告に必要な書類
自分で相続税の申告を行う場合に必要な書類をご紹介します。
相続税申込書の入手方法
相続税の申告で必ず使用する「相続税の申告書」は、最寄りの税務署に行くか国税庁のホームページからダウンロードすれば入手できます。
参考:[手続名]相続税の申告手続
相続税申告書の書き方
相続税の申告書は第1表から第15表までありますが、必ず提出する書類は下記の通りです。
● 第1表(相続税の申告書) ● 第2表(相続税の総額の計算書) ● 第11表(相続税がかかる財産の明細書) ● 第13表(債務及び葬式費用の明細書) ● 第15表(相続財産の種類別価額表) |
詳しくは、「相続税の申告書の記載例 等(pdf/28,333KB)」をご確認ください。
相続税申告書の提出先
相続税申告書の提出先は、被相続人の死亡時における住所地を所轄する税務署です。
持参または送付により提出できます。
財産を取得した人の住所地を所轄する税務署ではないので、注意しましょう。
申告に必要なその他の書類
相続税の申告に必要なその他の書類は下記の通りです。
● 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 ● 被相続人の住民票の除票 ● 相続人全員の戸籍謄本 ● 相続人全員の住民票 ● 相続人全員の印鑑証明書 ● 相続人全員のマイナンバー番号確認書類 ● 相続人全員の身元確認書類(マイナンバーカード・運転免許証など) ● 遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し |
上記のうち被相続人や相続人の身分関係の書類は、原則として相続開始日から10日以上が過ぎた後に取得したものが必要です。
さらに、相続の内容によっては登記簿謄本や証券会社の残高証明書なども用意します。
相続手続きの際の必要書類について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
申告後の税務調査はいつ行われる?
相続税申告後の税務調査は申告の翌年または2年後の8〜11月に行われるケースがほとんどです。
ただし、税務調査は必ず行われるわけではなく、申告数の約20%(5件に1件ほど)に対して調査が入るとされています。
申告を怠ったらどうなる?
では、相続税の申告を怠ってしまったらどうなるのでしょうか。
うっかり忘れていた場合
相続税には時効があり、時効が成立すれば相続税申告と納税の義務はなくなります。
相続税の申告をうっかり忘れていた場合、相続税の申告期限の翌日から5年または7年間、税務調査がなく税務署に相続税申告をしていないことが見つからなければ時効となってしまいます。
時効が5年か7年かの違いは下記の通りです。
時効が5年 | 相続税がかからないと信じて疑わなかった人のみ |
時効が7年 | 相続税がかかることを知っているにもかかわらず、時効まで待とうとした人や申告期限を忘れていた人 |
申告の遅れ・申告漏れが悪質だと判断された場合
相続税の申告の遅れや申告漏れが悪質だと判断されると、刑事罰が課せられる可能性があるでしょう。
なお、申告の遅れ・申告漏れがあった場合には、下記のようなペナルティが課せられます。
● 無申告加算税 ● 過少申告加算税 ● 重加算税 ● 延滞税 |
申告期限が過ぎた場合の対処法
「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」の相続税の申告期限を過ぎてしまった場合の対処法をお伝えします。
遺産分けが決まらない場合
相続税の申告期限までに遺産分けが決まらない場合、まずは法定相続分により算出された金額で未分割のまま仮申請をします。
仮申請の後、遺産分けが決まり次第、再度申告しましょう。
ただし、遺産分けが決まらないまま申告を行うと、配偶者の相続税額の軽減措置や小規模宅地等の特例は適応されません。
遺産の金額が確定しない場合
遺産の金額が確定しない場合には、申告期限内におおよその税額で申告しておきます。
後日、遺産の金額が確定した際に修正申告で税額を調整しましょう。
相続税の申告を自分で行うのはハードルが高い!
相続税の申告を自分で行うのは難しいと感じる方も多いでしょう。
申告漏れなどを防ぎ相続税を正しく申告するためには、税理士に相談するのも選択肢の一つです。
こんな場合は迷わず税理士に相談しよう
相続税の申告をする際に、税理士に相談したほうがよい事例を4つご紹介します。
遺産総額が1億円を超える場合
被相続人の遺産総額が1億円を超えるような場合、相続税の税額は高くなるため、間違えると追徴課税も高くなってしまいます。
申告ミスを防いでスムーズに手続きを進めるためにも、税理士に相談するほうがよいでしょう。
遺産に不動産が多い場合
不動産は分割が難しく、相続した際の相続税の計算方法も、現金や預貯金などに比べて複雑で難易度が高い傾向にあります。
自分では正しく計算できない可能性があるため、遺産に不動産が多い場合には税理士への相談がおすすめです。
配偶者の税額軽減を適用したい場合
配偶者の税額軽減とは、配偶者が相続した課税対象の財産の額が1億6,000万円まで、または配偶者の法定相続分までであれば、相続税が課税されない制度です。
この制度は相続税を節税することができる点がメリットですが、財産を相続した配偶者が亡くなった場合、配偶者の持つ多額の財産に対して相続税が課税されます。
したがって、次に配偶者が亡くなった場合の相続についても対策が必要となるため、税理士への相談がおすすめです。
小規模宅地等の特例を適用したい
小規模宅地等の特例とは、被相続人が事業をしていた土地や貸していた土地について、一定の条件を満たす人が相続すれば、土地の評価額を最大80%引き下げることができる制度です。
ただし、適用するための条件が複雑なため、小規模宅地等の特例を適用したいのであれば税理士に相談するとよいでしょう。
相続税の申告を自分で行うためには専門知識が必要!
相続税の申告を自分で行うためには、さまざまな専門知識が必要です。
土地価格の評価方法
土地価格の評価方法には、大きく分けて2種類あります。
路線価方式 | <土地に面している道路に付された標準価格を基準に評価する方法>
標準価格にその土地の奥行き・間口・形状など土地の価格に影響を与える条件を考慮して評価額を算出します。 |
倍率方式 | <固定資産税評価額に一定の倍率をかけて評価する方法>
市区町村役場で評価証明書を入手し、国税庁が公表している倍率を固定資産税評価額にかけて求めます。 |
配偶者や子ども名義の預金について
配偶者や子ども名義の預金であっても、実際に管理しているのが被相続人である場合、名義預金と判断される可能性が高いでしょう。
名義預金と判断されると相続税の対象です。
特例が適用できるかどうかの判断
小規模宅地等の特例が適用できるかどうかの判断には、以下のようなさまざまな専門知識が必要です。
● 土地の種類 ● 限度面積 ● 減額割合 |
さらに、土地の種類によっても特例が適用できるかどうかの判断要件が異なります。
税額計算のしくみについて
相続税の税額は、まず遺産を合算した後、納める相続税の総額を求める際は相続人が全員が対象です。
各相続人が相続した金額から個別に算出する仕組みではないので、注意しましょう。
【注意】税務署に行っても申告書の作成は依頼できない
相続税申告書の提出先は税務署ですが、税務署で相続税申告書の作成はできません。
税務署の窓口で相談を受け付けている場合もありますが、必ずしも職員が相続税に詳しいとは限らず、節税対策のアドバイスを受けることもできない可能性があります。
相続税の申告は専門家に相談しよう
相続税の申告を正しく行うためには、専門家に相談することをおすすめします。
特に税理士は、納税者が納税額を算出する申告納税制度を推進する役割を担う「税の専門家」です。
相続税申告を専門家に依頼する際には、相続専門の税理士や相続に強い税理士を選ぶと、適切なアドバイスが受けられるでしょう。
税理士に依頼した場合の費用
相続税申告を税理士に依頼する場合、遺産総額の0.5~1%程の費用がかかります。
たとえば、遺産総額が1億円なら税理士に支払う報酬は50~100万円です。
相続税の申告やご相談は林商会にお任せください
ここまで、相続税の申告についてご紹介してきました。
相続税の申告には専門知識が必要な場合も多く、自分で行うのはかなりハードルが高いと言えます。
誤った知識や手続きは申告ミスや払いすぎにつながりかねないため、専門家への依頼がおすすめです。
林商会には、相続税のプロである税理士をはじめ、相続診断士、弁護士、司法書士などの専門家が在籍しており、随時ご相談を受け付けています。
まずはお気軽に無料相談・無料お問い合わせからご相談ください。
まとめ
相続税の申告は自分で行うこともできますが、正しく申告しなければ追徴課税などペナルティを課せられるため、注意が必要です。
特に、遺産に不動産が多い場合や小規模宅地等の特例を適用したいといった場合、さまざまな専門知識が必要になるでしょう。
相続税申告を依頼する際には、相続専門の税理士や相続に強い税理士など、専門家を選ぶと適切なアドバイスが受けられます。