農地の相続には農業委員会への届出が必要!その他の手続きや相続税の納税猶予の特例、農業をしない人の対応策についても解説

農地 相続  アイキャッチ

「サラリーマンの自分が農地を相続する場合、どんな対応が必要なんだろう?」と疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

農地を相続する際には、法務局での名義変更のほか、農業委員会への届出が必要です。

この記事では、農業をしない人が相続後にできる対応策のほか、相続税の納税猶予の特例やよくあるトラブルについても解説します。

【はじめに】農地を相続するかどうかの検討は慎重に!

サラリーマンの疑問-

農地を相続するかどうかの機会に出くわしたら、慎重に検討して決めましょう。

宅地などを相続した場合に比べ、農地にはさまざまな法的制限があるため、一度相続してしまったら簡単に変更ができません。

農地を相続する際には、メリット・デメリットについてしっかり把握しておくようにしましょう。

農地相続のメリットは以下の4つです。

  • 相続人が農業をする場合は農地として活用できる
  • 相続税・贈与税の猶予制度がある
  • 固定資産税の軽減措置がある
  • 農地を貸し出せば、賃料収入が見込める

一方、農地相続のデメリットは以下の4つが挙げられます。

  • 初期費用がかかる
  • 管理の手間や費用がかかる
  • 資産価値が下がる可能性もある
  • 活用や転用をしても、収益が上がらないこともある

農地を相続する際に必要な手続き

農地-

農地を相続する場合、法務局での「相続登記(名義変更)」と農業委員会への「相続の届出」が必要ですが、農業委員会への届出には期限があります。

相続を決めたなら、早めに手続きすることをおすすめします。

法務局で農地の相続登記(名義変更)を行う

農地の相続登記(名義変更)は、農地のある住所を管轄している法務局で行います。

基本的に宅地などの相続と手続き方法は同じで、必要書類は遺産分割協議による相続か遺言による相続かによって異なります。

なお、相続登記の手続きには、固定資産税評価額×0.4%の登録免許税がかかります。

また、遺言による相続には先に農地委員会の許可が必要な場合もあるので、注意しておきましょう。

相続登記について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

相続登記に必要な書類と手続きの流れついて

農業委員会へ届出をする

相続登記の手続きが済んだら、農地法第3条の3第1項の規定により、農業委員会へ届出書を提出します。

農業委員会への届出は、相続開始を知ってから10か月以内に行わねばなりません。

期限を過ぎると10万円以下の過料が課せられる場合があるので、早めに届け出ましょう。

農業委員会は各市町村に設置されているのが一般的ですが、まれに設置されていない自治体もあるため、事前に役所に問い合わせることをおすすめします。

農業委員会への届出には、以下の書類が必要です。

必要書類 取得先 費用
農業法の規定による届出書 管轄の農業員会
市区町村のホームページ
無料
相続登記後の登記事項証明書 法務局 1通600円

農地の相続税の計算方法は?

計算イメージ

農地相続によって相続税がかかる場合があります。

農地を含む「遺産総額が3,000万円以下」の場合は相続税がかからないので、税務署への申告や納税は不要ですが、事前に確認しておくと安心です。

農地の相続税の計算手順

農地の相続税を計算する手順は、以下の通りです。

  1. 法定相続人の数を確定する
  2. 基礎控除を計算する※基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数 )
  3. すべての相続財産をリストアップし、総額を計算する
  4. 相続税の基礎控除額を差し引く
  5. 法定相続分に基づいて相続税額を計算し、合算する
  6. 相続税の総額を各相続人の実際の相続分に基づいて割り振る
  7. 控除などを適用する

相続税の申告について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

相続税の申告について

農地の評価方法は「農地の種類」で異なる!

農地の相続税を算出するためには、農地の評価が必要です。

農地の種類は「純農地」「中間農地」「市街地周辺農地」「市街地農地」の4つに分類され、以下のように評価方法が異なります。

農地の種類名 農地の区分など 評価方法
純農地 農業地区域内の農地
第1種農地
甲種農地など
宅地の影響を受けない農地
評価倍率方式
中間農地 第2種農地
それに準ずる農地など
都市近郊にある農地
評価倍率方式
市街地周辺農地 第3種農地
それに準ずる農地など
市街地に近接する農地
市街地農地だった場合の80%相当額
市街地農地 市街地区域内にある農地
転用許可を受けた農地
宅地比準方式
評価倍率方式

純農地や中間農地で適用される評価倍率法式では、固定資産税評価額×評価倍率で評価額を算出可能です。

評価倍率は国税庁ホームページの評価倍率表https://www.rosenka.nta.go.jp/)で確認できます。

また、宅地批准方式は(その農地が宅地だった場合の1m²あたりの価格-1m²あたりの造成費)×地積で求めます。

農地の相続税評価は専門知識が必要だったり計算が複雑だったりするので、税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。

【農業をする人が知っておきたい特例】農地の相続税の納税猶予

猶予イメージ

農地の相続者が農業を行う予定であれば、納税猶予が受けられる可能性があります。

農地の相続税の納税猶予の要件

農地の相続税の納税猶予を受けるためにはさまざまな要件があり、以下のいずれかに該当する必要があります。

被相続人の要件

  • 死亡日までに農家を営んでいた
  • 死亡日までに営農困難時貸付や特定貸付を行なっていた
  • 生前に農地の一括贈与を行なった

農地相続人の要件

  • 被相続人の相続人である
  • 相続税の申告期限までに農業を引き継いで、その後も継続する予定である
  • 被相続人から生前に農地を一括贈与され、贈与税の納税猶予特例を受けている
  • 相続税の申告期限までに特定貸与を行なった

農地の要件

  • 相続税の申告期限までに遺産分割が終了している農地
  • 贈与税の納税猶予特例が適用されている農地
  • 相続があった年に被相続人から生前一括贈与された農地

納税が猶予される税額の計算方法

納税猶予額は、「通常の評価方法による相続税の総額」-「農業投資価格による相続税の総額」で求めます。

まず、通常の評価方法による相続税の総額を、以下の通りです。

  1. 農地の評価額を算出
  2. 課税遺産総額を算出
  3. 通常の評価方法による相続税の総額を算出

続いて、農業投資価格による相続税の総額を、以下の手順で算出します。

  1. 国税庁ホームページ(https://www.rosenka.nta.go.jp/)で農業投資価格を調べる
  2. 農地の評価額を算出
  3. 課税遺産総額を算出(農地の評価額-基礎控除額)
  4. 農業投資価格による相続税の総額を算出

それぞれで求めた額を差し引きすることで、納税猶予額を算出できます。

農地の相続税の納税猶予を受けるための手続き

納税猶予を受けるためには、相続税の申告期限内に手続きを済ませる必要があります。

申告期限は相続開始から10か月以内です。

また、猶予を受けるためには納税猶予額および利子に見合った担保を提供しなければならない点も覚えておきましょう。

手続きには以下の書類が必要です。

  • 相続税の納税猶予に関する適格者証明書(農業委員会より発行)
  • 相続税の納税猶予の特定貸付に関する届出書(特定貸付を行なっている場合)
  • 担保として提供する財産の明細書など

書類が揃ったら、相続税の申告書とともに税務署に提出しましょう。

納税猶予の注意点

納税猶予はあくまでも相続人が亡くなるまで農業を続けることが前提のため、途中で宅地などに転用すると、猶予されていた相続税と利子税を支払わねばなりません。

もしも将来的に農地からの転用を考えているなら、納税猶予は受けないほうがよいでしょう。

また、納税猶予の特例を適用した場合、3年ごとに猶予継続の届出をする必要があります。

継続手続きの際には、以下の書類を税務署に提出します。

  • 相続税の納税猶予に関する継続届出書
  • 農業(または農地貸付)を行なっていることを証明する農業委員会の証明書
  • 特定農地などの移動明細書
  • 特定農地などに係る農業経営(または貸付)に関する明細書

継続の届出をしなければ猶予が取り消され、猶予されていた納税額および利子税を収めることになるので、注意しましょう。

納税しなければならないケース

猶予が認められた場合でも、次のいずれかに該当した場合納税猶予は打ち切られ、納税猶予税額のすべて、または一部に加えて、利子税を納付しなければなりません。

  • 特例農地について譲渡があった場合
  • 特例農地にかかわる農業経営が廃止した場合
  • 継続届出書の提出がなかった場合
  • 担保変更の求めに応じなかった場合
  • 都市営農農地で生産緑地法の規定による買取の申出または指定の解除があった場合
  • 都市計画の変更により特例農地が特定市街化区域農地などに該当することになった場合
  • 適用を受けた準農地で申告期限後10年を経過するまでに農業が行われなかった場合

納税猶予額が免除されるケース

猶予認定を受けた後、農地を相続した相続人が猶予期間内に死亡した場合農地のすべてを農業後継者に生前一括贈与した場合納税猶予額が免除されます。

また、一部の農地では、農業を20年間継続した場合に免除となる場合があります。

農業をしない人が農地を相続したときの対応策

農業放棄のイメージ-

農地の相続権は、農業をしない人にも発生します。

農業をする予定のない人が農地を相続した場合の対応策を考えてみましょう。

農地のまま売却する

相続登記後に農地のまま売却する場合は、農業をする人以外への売却が原則認められないため、買い手を見つけるのに苦労するかもしれません。

また、農業委員会の許可などの複雑な手続きが必要であることから、農地売却に詳しい不動産会社に相談するのがおすすめです。

農地のまま賃貸する

農地のまま農家へ貸し出す際にも、農業委員会の許可が必要です。

ただし、農地の貸し借りを仲介する農地バンク市民農園として貸し出す場合に許可は必要ありません。

農地以外の用途に転用する

宅地など農地以外の用途に転用する場合は、一定の基準を満たしたうえで、農業委員会や都道府県知事の許可を得る必要があります。

転用できない農地もあるため、相続する農地が転用可能かどうかを事前に確認しておきましょう。

最低限の管理を行いながら放置する

売却も転用もできないからと農地を放置する場合でも、最低限の管理は必ず行いましょう。

管理せずに放置しておくと雑草や害虫問題のほか、農地内に納屋などの建物が建っている場合は、倒壊や治安悪化の恐れがありトラブルになりかねません。

必要に応じて除草作業や建物の取り壊しなどの管理を行いましょう。

また、放置する場合でも相続登記は必要で、固定資産税がかかる点にも注意してください。

相続放棄をする

農地の相続を拒否したい場合は相続放棄をすることも可能です。

ただし、農地のみの相続放棄はできないため、農地を含むすべての財産相続を放棄しなければなりません。

また、相続放棄には相続開始から3か月以内の期限が定められている点や、相続放棄をしても農地の管理義務がある点に注意が必要です。

土地や不動産の相続放棄について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

土地や不動産の相続放棄について

農地の相続にありがちなトラブル

トラブルイメージ

農地相続にありがちなトラブルについて解説していきましょう。

遺産分割の方法がまとまらない

遺産分割は原則としてすべての相続人が参加して協議を行い、分割方法を決定します。

相続人が多ければ多いほど、協議が難航する可能性が高くなります。

相続人のうち1人でも異論を唱えた場合は成立せず、調停などの第三者を交えた方法をとるか、法定相続割合で登記を行うことになるでしょう。

農地の場合、単独で相続する場合が大半ですが、法定相続割合で登記を行なった場合に関しては共有財産です。

また、遺言書がある場合にも、遺留分の相続でトラブルになる事例があります。

農地相続の可能性がある場合は、被相続人の生前から農地相続に関する話し合いを行なっておくとよいでしょう。

農業を継続する人がおらず、引き継ぎ手がない

すべての相続人が農業を行わない場合、農地の引き継ぎ手がいない事態に陥るでしょう。

農地の相続人が農村部を離れて都市部に住んでいる場合などは、農地の管理すらできないため、農地の処分を考える必要があります。

しかし農地売却には制約があり、転用手続きも煩雑なため、農地の相続は避けたいと考える人も多いようです。

農業の引き継ぎ手がいない場合は、被相続人の生前から農地の売却先を探しておくことをおすすめします。

農地の相続税が高くなって払えない

農地の相続税が高くて払えないトラブルが起こる場合もあるでしょう。

市街地区内にある農地は比較的転用しやすいため、評価額が高額になることもあります。

農地は宅地より面積が大きく、宅地と同様に評価されると地域によっては多額の相続税を課せられるため、事前に税理士に相談するのがおすすめです。

農地の売買・貸借に関する制度

売地のイメージ-

農地を相続しても農業を行わない場合は、農地法農業経営基盤強化促進法など農地の売買・貸借に関する制度を理解しておく必要があります。

農地法に基づく農地の売買・貸借の制度

農地を売買もしくは貸借する場合、農業委員会などの許可を得る方法(農地法)と、市町村が定める「農用地利用集積計画」により権利を設定・移転する方法(農業経営基盤強化促進法)があります。

以下では、農地法に基づいた農地の売買・貸借について見ていきましょう。

農地の権利取得

通常は農地の権利取得には農業委員会の許可が必要です。

相続で農地を取得した場合に許可は不要ですが、適正に農地が利用されるためには農業委員会へ届け出なければなりません。

賃貸借の存続期間

農地法第19条によると、農地の賃貸借の存続期間は50年以内とされています。

ただし、農地法第3条の許可を受けてから農地の賃貸借を行なった場合は、法定更新(自動的に契約期間が更新されること)されます。

存続期限が到来しても、期間満了の1年~6か月前までの間に更新しない旨を通知しない限り、賃貸借は解約されず、従前と同一条件で賃貸借したとみなされます。(農地法の法定更新、農地法第17条)

賃貸借の解除等

農地の賃貸借契約の存続期間内での解除や解約は、原則として都道府県知事の許可が必要です。

解約が許可されるのは以下の場合に限られます。

  • 貸借人が信義に反した場合
  • 農地の転用が相当な場合
  • 貸借人の自作を相当とする場合
  • 貸借人が農業委員会から農地中間管理権の取得に関する勧告を受けた場合
  • 貸借人の農地所有適格法人がその要件を満たさなくなった場合
  • その他、正当な理由がある場合

上記以外にも、賃貸人と貸借人の合意による解約や、賃貸借の解除があらかじめ農業委員会に届け出されている場合は、例外的に都道府県知事の許可なく解約・解除できます。

農業経営基盤強化促進法に基づく農地の売買・貸借の制度

農業経営基盤強化促進法に基づく農地の売買や貸借には、売り手と買い手もしくは貸し手と借り手が同意のうえで売買・貸借の申出が必要です。

その後、農業委員会の決定を受け、市町村が公告して契約が成立します。

また、賃貸借期間が終了すると農地は必ず所有者に返還されますが、更新することで継続して貸借もできます。

借り手の要件は以下の通りです。

  • すべての農地を効率的に利用すると認められること
  • 必要な農作業に常時従事すると認められること

また、貸し手の要件は以下の通りです。

  • 申出の農地には貸借権などが設定されていないこと
  • 贈与税の納税猶予の特例を受けていないこと
  • 対象農地が市街化調整区域内および都市計画区域外であること

農地の相続についてのご相談は林商会にお任せください

農地の相続手続きは一般の宅地とは異なるうえにさまざまな法規制があるため、難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。

あやふやな知識のまま手続きを行なってしまうと、取り返しのつかない事態になりかねないため、専門家に依頼することをおすすめします。

相続の専門家集団である林商会には、税理士・弁護士・司法書士などが在籍しており、農地相続のお悩み一つひとつに寄り添って丁寧に対応します。

まずは無料相談、お問い合わせからお気軽にご連絡ください。

お問い合わせ

まとめ

農地の相続にはさまざまな手続きが必要です。

また、遺産分割する際のトラブルも懸念されることから、農業をする可能性がない場合は、相続前に農地の調査を慎重に行う必要があるでしょう。

複雑な手続きや計算も絡んでくるため、個人での手続きが不安な場合は専門家に相談することをおすすめします。

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