相続特別受益とは?対象範囲・計算方法から主張の流れまでを詳しく解説

相続特別受益 アイキャッチ

ある相続人が高額の生前贈与を受け取った場合、他の相続人は不公平だと感じることがあるでしょう。

このようなケースで相続額を調整するための制度を「相続特別受益」といいます。

本記事では相続特別受益の対象範囲・計算方法から主張の流れ・トラブル対策までを詳しくまとめていますので、ぜひ参考にしてください。

目次

【はじめに】相続特別受益の定義を確認しよう!

ノートと老眼鏡

相続特別受益とは、相続人が被相続人から受けた特別な利益のことをいいます。

相続が発生した時点の財産だけで遺産分割をすると、生前に財産を受け取った人が得をしてしまうため、場合によっては相続人間での争いに繋がってしまうでしょう。

そのため遺産分割では、遺贈などの特別な利益(相続特別受益)を合わせた上で遺産分割を行うことが定められています。

これは、相続人間の不平等を避けるための規定として法律で定められた「特別受益の持ち戻し」という規定です。

【対象範囲】相続特別受益に該当するもの

相続を考える老夫婦

相続特別受益は、生前に贈与された財産のすべてが対象になるわけではありません。

どのような贈与が相続特別受益に該当するのか、詳しくみていきましょう。

①生前贈与

相続特別受益に該当する生前贈与には、2つのパターンがあります。

【前提】被相続人の経済状況によって該当範囲が変わる

相続特別受益に該当する生前贈与は、結婚に関する贈与と生計に関わる贈与です。

ただし、すべてのパターンで贈与と扱われるわけではなく、たとえば受取額が少なければ「扶養義務」とみなされる場合もあります。

このように、時代背景や被相続人の経済状況などによって該当範囲が変化するため、状況に応じて判断しましょう。

結婚等のための贈与

結婚に関わる費用は一般的に扶養の範囲内とみなされますが、高額な挙式費用や多額の持参金など結婚等のための贈与に該当します。

該当基準は被相続人の経済状況や地域の相場によって変わり、「◯◯◯円からは贈与となる」などといった決まりはありません。

生計の資本の贈与

すでに独立している家族への多額の贈与は扶養の範囲を超えるため、生計の資本の贈与に該当します。

  • 住宅購入資金の贈与
  • 事業用資産の贈与
  • 長期の海外留学
  • 私立大学の医学部や歯学部の学費

特に上記のような他の相続人との不公平が想定されるものは、相続特別受益とみなされやすい対象です。

②遺贈

遺贈とは、被相続人によって遺された遺言書に書かれている財産の贈与のことです。

たとえば相続人に財産の一部が遺贈された場合には、その分を相続特別受益として遺産分割を進める必要があります。

③死因贈与

死因贈与とは、「自分が亡くなったらこの財産を贈与する」という、贈与者と受贈者の間で交わされた約束による贈与のことです。

この受贈者が相続人であった場合、受け取った財産は相続特別受益に該当します。

【対象範囲】相続特別受益に該当しないもの

円グラフ

財産を受け取っても相続特別受益に該当しないのは、どのようなケースでしょうか。

①相続人以外への贈与・遺贈

相続特別受益は、相続人への贈与や遺贈に関してのみ対象となります。

そのため、被相続人から孫への贈与などは相続特別受益に含まれません。

ただし、なかには孫の学費など、孫ではなく子への贈与と判断されるケースもあり、その場合は相続特別受益と扱われます。

また、多額の贈与が相続人以外に贈られた場合は、相続人によって遺留分侵害額請求が申し立てられることもあります。

<遺留分とは>
相続人全体で相続できる最低限の財産を総体的遺留分といいます。

相続人 総体的遺留分
被相続人の配偶者と子ども 1/2
被相続人の配偶者と父母 1/2
被相続人の配偶者と兄弟姉妹 1/2
被相続人の子ども 1/2
被相続人の父母 1/3
被相続人の父母と祖父母 1/3
被相続人の兄弟姉妹 なし

②おしどり贈与

おしどり贈与とは配偶者控除のことで、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で自宅などの居住用の不動産の贈与(2,000万円まで)に関する贈与税が控除される仕組みです。

2019年の民法改正により、おしどり贈与によって贈られた財産は相続特別受益に含めないことになりました。

ただし、他の法定相続人に保証されている財産取り分(遺留分)を侵害している場合には、遺留分におしどり贈与も含まれます。

③生命保険・死亡退職金

生命保険金や死亡退職金は、そもそも受取人の固有の財産です。

そのため基本的には相続特別受益に該当しませんが、相続財産と比べて金額が大きければ遺産の前渡しとして相続特別受益とみなされるケースもあります。

【2019年法改定】相続特別受益の変更点とは

法改正

2019年の民法改正では、相続特別受益についてもさまざまな変更がありました。

ここでは遺産分割に関わる主な変更点を解説します。

持ち戻し期間が10年に変更

相続財産の遺留分を計算する際に相続特別受益となる贈与が行われた時期が、相続が発生する10年以内へ変更されました。

特別受益には時効はないので、10年以上前の贈与を持ち戻すことは可能ですが、遺留分の計算に関しては10年以内に限定されたのが大きな変更点といえます。

配偶者への持ち戻し免除対象が一部変更

法改正以前には、配偶者へ住居を生前贈与することは遺産の先渡しとして相続特別受益の対象でした。

この制度には、自分が亡くなった後に配偶者が住む場所を確保するために自宅を贈与すると、配偶者が受け取れる遺産が減額されてしまうという問題がありました。

そのため、贈与者によって「持ち戻しの免除」を書面で残すことで持ち戻しを免除できるようになっていましたが、現在は特別な書面は不要です。

法改正後は「おしどり贈与」によって贈られた住居は持ち戻し免除となり、配偶者が相続する財産が減額される問題がなくなりました。

【計算方法】相続特別受益の持ち戻し額はどうやって求める?

計算機と手帳

相続特別受益を相続財産に持ち戻して遺産分割をする場合は、相続特別受益と相続財産を合わせた「みなし相続財産」を元に分割されます。

では、その持ち戻し金額はどのように決められるのでしょうか。

持ち戻し額の計算方法

被相続人(父親)に対して、相続人が「長男」「長女」「次男」の3人がいる場合を例に見ていきましょう。

父親が亡くなる前に、長男が3,000万円の生前贈与を受けていて、その贈与が相続特別受益になるとします。

父親が遺した相続財産は9,000万円あったとしましょう。

相続財産の総額 = 9,000万円 + 3,000万円 = みなし相続財産 1億2,000万円

みなし財産の1億2,000万円を相続人によって分割することになります。

1億2,000万円 ÷ 3人 = 具体的相続分 4,000万円

この場合、長女と次男が相続するのは4,000万円です。

すでに3,000万円の生前贈与を受けている長男は、その分を差し引いた1,000万円を相続します。

長男の相続特別受益が持ち戻し計算によって出た金額(具体的相続分)よりも多かった場合も、長男はその差額を支払う必要はなく、受け取る遺産がないという扱いになります。

遺留分減殺とは

生前贈与や遺贈、遺産分割などで法定相続人に保証されている財産取り分(遺留分)が侵害されたときに請求できるのが、遺留分減殺です。

この制度は、相続特別受益で財産を相続した人と他の相続人の間での不公平をなくすために定められています。

被相続人(父親)に対して、相続人が「長男」「長女」「次男」の3人がいて、相続財産が4,000万円あり、長男が生前贈与で8,000万円を受け取ったとします。

8,000万円を特別受益として遺産分割をした場合にどのようになるのか、計算をしてみましょう。

相続財産 3,000万円 + 特別受益 9,000万円 = みなし相続財産 1億2,000万円

みなし相続財産を、相続人で分割をします。

1億2,000万円 ÷ 3人 = 具体的相続分 4,000万円

相続人1人につき4,000万円を相続することになりましたが、1人の相続人が特別受益で8,000万を受け取っているため、実質的な相続財産は4,000万円しかありません。

長男は特別受益ですでに8,000万円を受け取っているので、相続財産は長女と次男で分割することになります。

長男の実際取得額 0円
長女と次男の実際取得額 3,000万円 ÷ 2 = 1,500万円

このパターンでは、みなし相続財産の1/2の6,000万円で、それを3人で割った2,000万円が遺留分となります。

長女と次男の実際取得額は遺留分より500万円少ないので、その分を遺留分減殺請求することができるのです。

特別受益に課される相続税・贈与税

相続特別受益となる遺贈生前贈与はどちらも課税対象で、遺産相続で持ち戻しにならなかった場合にも課税されます。

遺贈の場合

遺贈を受けた場合、相続税の基礎控除額を上回った部分に相続税が課せられます。

生前贈与の場合

生前贈与に対して課せられるのは、贈与税です。

課税方法には2種類があり、納税者が選ぶことができます。

課税方法 概要
暦年課税 基礎控除額(年間110万円)を上回った分に課税される。
贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日の期間に申告と納税を行う。
相続時精算課税制度 基礎控除額(2,500万円)を上回った分に対して20%を納税する。
相続が発生したら、相続した財産と生前贈与を合わせて相続税が課せられる。
すでに納税した贈与税分は相続税から控除される。

【例外】持ち戻しを考慮しないケースを確認しよう!

赤いトマトと黄色いトマト

相続特別受益があったとき、必ずしも持ち戻しをしなければならないというわけではありません。

ここからは、持ち戻しを考慮しないケースをみていきましょう。

持ち戻し免除の意思表示がある場合

被相続人が遺言書などで持ち戻し免除について言及している場合、相続特別受益の持ち戻しは発生しません。

ただし、持ち戻しをしないことで他の相続人の遺留分が侵害されてしまう場合には、相続特別受益者に対して遺留分侵害請求が行われます。

相続人が1人の場合

相続人が1人だけなら、遺産分割の必要がありません。

そのため、特別受益を考慮せずに相続を進めることができます。

受益者が相続放棄をした場合

相続特別受益を受けた相続人が相続放棄をした場合、その人は相続人ではなくなります。

被相続人が遺した相続財産を相続人の間で遺産分割するので、相続特別受益について考慮することはありません。

相続財産がマイナスの場合

被相続人が遺した借金などのマイナスの財産を相続した場合、相続人はその借金を返済しなければなりません。

相続特別受益は相続人間で受け取る財産を平等にするための制度なので、財産がマイナスの状態であれば特別受益の持ち戻しは不要です。

誰も持ち戻し請求をしていない場合

相続特別受益を受けた人は、自ら持ち戻しを申し出る必要はありません。

他の相続人が持ち戻しを請求しないのであれば、相続特別受益を考慮せずに遺産分割を進めることになります。

特に生前贈与の場合、特別受益の該当範囲が曖昧なため、請求されないケースも少なくありません。

【手続きの流れ】相続特別受益の主張方法

遺産分割について話し合う人々

実際に「相続特別受益を受けていたのでは?」と思う相続人がいる場合、持ち戻しを請求するにはどうすればいいのでしょうか。

相続特別受益を主張する方法を解説します。

ステップ①証拠を集める

相続特別受益を明確にするために、まずは証拠を集めましょう。

集める証拠は口約束や、私的な手紙、日記などではなく、お金の動きがわかることが重要です。

  • 贈与に関する契約書
  • 被相続人の通帳や残高証明
  • 登記簿
  • 不動産の査定書

特別受益を受けた人や他の相続人が納得できる客観性の高い証拠を集めましょう。

ステップ②遺産分割協議で主張する

相続人による遺産分割協議にて、相続特別受益を主張し持ち戻しを請求します。

相手が請求を受け入れるようであれば、相続財産と持ち戻し分を合わせたみなし相続財産を元に遺産分割協議を進めましょう。

遺産分割協議がまとまらない場合

相手が相続特別受益を認めない場合、遺産分割協議を進めることができません。

その場合は、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てを行います。

家庭裁判所の調停委員を仲立ちにして、相続特別受益を含めた遺産分割の話し合い(調停)を進め、それでもまとまらなければ審判に委ねることになります。

審判の結果が不服である場合は高等裁判所に抗告ができますが、相続特別受益について民事訴訟を起こすことはできません。

相続完了後に特別受益が発覚した場合

遺産分割協議がまとまり、相続が完了した後に特別受益が発覚した場合、遺産分割協議をやり直すことができます。

実際には特別受益者がそれを受け入れないケースも考えられるため、話し合いを進めるためには弁護士に仲裁してもらうとよいでしょう。

また、相続特別受益を持ち戻し計算して遺留分の侵害があった場合には、遺留分減殺請求をすることができます。

【要チェック】相続特別受益のトラブルを防ぐために

チェックリスト

相続特別受益が原因で相続人の間でわだかまりが生まれたり、大きなトラブルに発展する可能性はゼロではありません。

不公平感を感じる相続人がいると、その後の親族同士の関係がギクシャクしてしまうかもしれません。

このようなトラブルを防ぐために、事前にできる対策をいくつか紹介します。

【事前対策】生前贈与は家族と相談して決める

大きな金額を生前贈与する場合には、贈る相手だけでなく他の相続人にも説明をし、事前に納得を促すことが大切です。

生前贈与をする目的や理由、金額、時期などを他の相続人が理解していれば、後のトラブルを防げるでしょう。

【事前対策】遺言書を作成する

相続特別受益の持ち戻しは、被相続人の意思によって免除できます。

他の相続人が納得していれば口約束でも有効ですが、トラブル回避のためには遺言書に持ち戻し免除について書き残しておくのがよいでしょう。

ただし、特別受益が他の相続人の遺留分を侵害しているときに限り、遺留分侵害額請求によって支払いが発生するケースもあります。

【事前対策】生命保険金を活用する

遺留分侵害額請求対策として、生命保険金を活用するという方法があります。

生命保険金は遺産には含まれないため特別受益にならず、遺留分侵害額請求の支払いに備えることができるのです。

それならば、「相続特別受益を受ける人以外の相続人を生命保険金の受取人にすればよいのでは?」と考えるかもしれません。

しかし、生命保険金と遺留分侵害額請求は繋がっていないため、生命保険金を受け取った人でも特別受益者に遺留分を請求することができてしまうのです。

平等に財産を残すためには、遺留分侵害額を請求される相続人に生命保険金を残すのが得策といえます。

遺産分割調停・審判を利用する

相続特別受益のトラブルを避ける方法の一つが、遺産分割調停や審判を利用することです。

家庭裁判所では調停委員に双方の考えを聞いた上で調停案をまとめ、すべての相続人が納得できれば調停成立で遺産分割に進みます。

万が一調停で決まらなければ審判を行い、裁判所の決定に従いましょう。

専門家に相談する

遺産分割の話し合いは、相続人同士だとうまくまとまらない場合も多いでしょう。

特に相続特別受益は、被相続人の経済状況や社会情勢、地域性などさまざまな要因が絡むため、本当に特別受益にあたるのかを判断するのは簡単ではありません。

そのようなときには、相続に精通した専門家に相談をするのがおすすめです。

特に法律の専門家である弁護士に仲裁を依頼すれば、話し合いをスムーズに進められるでしょう。

相続特別受益の疑問や相続についてのご相談は林商会にお任せください!

特別受益は相続人間の不公平を正すための制度ですが、主張の違いからトラブルに発展するケースが跡を立ちません。

「特別受益が認められず遺産分割調停に申立てることになった…」という事態を避けるためにも、早めに第三者に相談しましょう。

林商会では相続に精通した弁護士・税理士などの各種専門家が在籍しており、随時相談を承っています。

豊富な実績をもとにケースごとの最適なご提案をさせていただきますので、まずは無料相談からお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ

まとめ

老人と明るいイメージ

高額な生前贈与や遺贈を受けた相続人がいる場合には、相続特別受益を主張して持ち戻し計算をすることになります。

遺産分割が不公平にならないように、相続人間でのトラブルに繋がらないようにするためには、相続特別受益について詳しく知っておくことが大切です。

難しい場合にはプロの力も借りて、スムーズかつ平等に遺産分割を進めましょう。

公式LINEアカウントで無料相談受付中!

終活瓦版では公式LINEアカウントにて、遺品整理・終活・ゴミ屋敷などの無料相談を実施中です!

どんな些細なことでも構いません。まずはお気軽にご相談ください!

LINEをお友達追加する