孤独死は、1970年代ごろから「独居老人の住居内での死亡」を表す言葉として使用され始め、1995年の阪神淡路大震災あたりから頻繁にニュースなどで報道されるようになりました。
当初、孤独死は核家族化が進んだことで独居老人が増えた事により問題となりましたが、近年では若年層の孤独死も問題となっています。
この記事では、30代の若い世代がなぜ孤独死せざるを得なかったのか、弊社が特殊清掃を通して見た現場を基にその実態についてご紹介します。
目次
孤独死の数は年々増加している
孤独死とは、誰にも看取られることなく孤独に自宅などで亡くなり、後日遺体が発見されるケースのことを指します。
日本では年間の孤独死発生数は年々増加傾向にあり、高齢者に限った問題ではないとの認識が広まってきています。
孤独死の件数はたった数年で3倍に

引用:東京監察医務院
上記は東京都が発表した、23区内での高齢者の孤独死数の推移を示したものです。
こちらの表では、「孤独死=独居者が誰にも看取られず住宅内で死亡」と定義されています。
実は孤独死には明確な定義が存在せず、更に「死後〇日経過後に発見された場合」などの条件が追加されることもありますし、逆に「独居者に限定されない」ことも。
このように孤独死は定義が曖昧なために全国的なデータが存在しないのですが、どのデータを参照しても孤独死の数は年々上昇傾向にあります。
また、それとともに孤独死者の若年化が進んでいるとも言われており、日本の平均寿命が84歳なのに対し、孤独死者の平均年齢は61歳と20歳以上もの差が生じています。
そして、孤独死者の約45%が60歳未満の現役世代なのです。
30代では自殺が原因での孤独死が最も多い

上記の表は、孤独死における自殺者の割合を年齢・性別ごとに示したものです。
表を見ると、性別に関わらず30代での自殺者の孤独死が最も多いことがわかります。
また、自殺による孤独死の総数のうち20~40代の若年層が占める割合は、男性が73.4%・女性が81.5%となっており、孤独死全体でみた若年層の割合43.4%を考えると若年層の孤独死では自殺が突出して高い割合となっています。
弊社で扱った30代男性の孤独死事例①自殺
取引のある不動産会社からの依頼
弊社では特殊清掃のほかに、不用品回収や不動産売買なども行っているため、展開する業務に併せて取引のある業者様も多くいらっしゃいます。
今回ご紹介する、孤独死の事例は不動産関連事業でお取引のあった不動産業者の方からでした。
「うちの管理するアパートの1室で自殺があったんだけど…。」
弊社に自殺で亡くなられた部屋の特殊清掃のご依頼をいただき、話を聞くと後日遺族が現場となったアパートへ来られる予定だということ。
遺族が来られる日に合わせて現場へ向かうことになりました。
首吊り自殺のあった現場には想像を絶する光景が

今回亡くなられた男性はクローゼット内での首吊り自殺による孤独死。
某俳優の自殺で報道された手順と同じく、ハンガーを掛けるポールを利用したようです。
首を吊るためのスペースを空けるためなのでしょうか。
私たちが現場に入った時には、中に掛けられていたであろう衣服は全て室内スペースに出されており、クローゼット内は、がらんとしていました。
下に目を向けると、クローゼット内だけ床が黒い物で覆いつくされている。
今回の男性のように首吊り自殺で人が亡くなった場合、遺体の腐敗とともに流れ出る体液は重力に従いどんどん遺体の真下へと滴下します。
口や目、肛門だけではなく皮膚からも。
この男性の場合は体液の量がすさまじく多く、クローゼット内の床がもともと黒かったのかと錯覚させるほどのものでした。
そうして蓄積した体液は、血液・脂・内臓組織の腐敗液・糞便と様々な物質を含み、層となっていました。
家族のショックは大きく見ているのも辛かった
私たちは、ご遺族が来られる日に合わせて孤独死のあった現場へと向かいました。
現場に到着すると、亡くなられた30代男性の遺族である、ご両親と妹さんの姿がありました。
今回の遺体の第一発見者は妹さん。
故人と妹さんは年齢が5つほど離れていましたが、とても仲が良く近所でも評判のご兄妹だったそうです。
2人はしょっちゅう連絡を取り合う中で、妹さんが故人宅に遊びに来ることも良くあったそう。
しかし、ある日突然兄からの連絡が途絶えたため、心配した妹さんが家を尋ねたところ、変わり果てた兄の姿を発見されたそうです。
妹さんは、お兄さんが自ら命を絶ったそのままの状況を見てしまったためか、我々が現場に到着する前からかなり取り乱していた様子。
ご両親も息子に先立たれたことでショックが大きく、憔悴された様子でした。
弊社で扱った30代男性の孤独死事例②引きこもり
大手家電メーカーの技術系職だったこの男性
約4年前の春。
関西での30代男性の孤独死で故人のお母様から特殊清掃のご依頼を受けました。
亡くなった男性は、世界的にもシェアを獲得する大手家電メーカーの技術部門に勤務。
勤務先近くのマンションで一人暮らしをしていた男性は、真面目で遅刻や欠勤など殆どなかったそうです。
ところが突然、連絡もなしに勤務先に現れなくなり、上司が様子を見に来たところ息絶えた男性の姿を発見されました。
自殺や他殺を疑うものもなく持病もなかったため、突然死ではないかとの話でした。
朝晩はまだ冷えることも多い春、死後3日と発見が早かったこともあり、幸い遺体の損傷からくる体液汚染は軽度の物でした。
室内は物屋敷:通販サイトの段ボールが散乱

現場となったマンションは、築5年程と比較的新しく間取りは2LDK。
1人で住むには広すぎるこの室内には、通販サイトから送られてきた段ボールに埋め尽くされており、もはや物屋敷そのもの。
開封済みの物、未開封の物が乱雑に積み重なり室内を移動することすら困難を極めました。
冷蔵庫すらも段ボールの山に埋もれ、その存在に気付かなかった程です。
生前、男性は親しい友人がおらず仕事以外では家に引きこもっていたそうです。
そんな男性にとって、アニメやゲームの女性キャラクターが唯一の心の拠り所だったのでしょうか。
孤立した彼は休日などの空いた時間に、通販サイトでそういった買い物をするのが日課になっていたようです。
常に次の心の拠り所を探していたのでしょう。
すさまじい量の段ボールの中身の殆どが、フィギュアやゲームなど彼の趣向が伺える品ばかりでした。
そして、時には限度額を超えるほどの金額を使うこともあったのか、室内からは大量のクレジットカードも発見されました。
友達・社会からの孤立が招いた今回の事例
仕事以外での社会や人との接点がなかった今回の男性。
大企業の技術職として勤務し、良い家に住み金銭的には余裕があったと推測できます。
しかし孤立が原因で家に引きこもり、買い物依存症となってしまった彼は、大量の段ボールに囲まれて暮らす日々を送っていました。
そうするうちに、おそらくセルフネグレクトのような状態に陥っていたのでしょう。
大量の段ボールに埋もれた冷蔵庫には飲み物が少し入っている程度で、キッチンにも荷物が散乱し使用された形跡は全くなく、不摂生な生活を送っていたことが伺えます。
「この男性は趣味の買い物以外に何も金を使っていなかったのか?」
思わずそう感じてしまうほどでした。
遺族であるお母様は、子に先立たれたショックが大きくご依頼をいただいた段階から、かなり疲弊された印象でした。
そのため、彼が大量に所持していたクレジットカードの他に、複数所有していた銀行口座の解凍手続き・マンション管理会社への手続きなど、我々ができる範囲でご遺族の負担を軽減できるよう務めさせていただいたことを今でも鮮明に覚えています。
孤独死の事例について詳しくはこちらの記事をお読みください。
▼特殊清掃員がみた孤独死の事例とは
働き盛りの現役世代:なぜ孤独死が起きるのか
現実社会での人間関係の希薄化
孤独死の要因となる“孤立”がなぜ30代でも起こってしまうのかを考えてみたいと思います。
30代の人達は、物心が付いたころにはある程度インターネットが普及していた世代。
mixiやFacebookをはじめとしたSNSを初期に使用していた方も多いのではないでしょうか。
若いころからSNSやメールでの人間関係を当たり前のように行うことで、現実世界での人間関係を苦手とする人も多く、携帯電話やスマートフォンが普及し次々と新しいSNSが誕生する現代ならではの問題だといえます。
また、30代では生活環境に変化がある人も多くいます。
それは、結婚や子供の誕生、出世や起業などの様々なライフイベントを30代で迎える人が多いから。
そうなると、30代になっても20代の頃と変わらない生活を送る人は、その中で取り残されてしまい、結果として孤立してしまうのです。
ハードワークによるストレス

引用:総務省労働力調査
日本は諸外国と比較し労働時間が長く、週49時間以上働く人の割合はさらに高いといわれています。
また、上記の表をご覧いただくとわかる通り、30代・40代の男性ではさらに長時間労働を強いられているという現状がわかります。
近年の働き方改革により、企業による長時間労働は軽減されつつあると考えられていましたが、政府が把握しているデータだけを見ても、依然として長時間の残業や休日出勤は続いているのです。
そして、一般的に30代では、自身のキャリアがスタートしてから10年の節目であり、今後のキャリアが決まるターニングポイントになることも多いでしょう。
マネージャークラスへの昇進など、責任感とともにストレスを感じる場面も増えてきます。
そんな中で、長時間労働が続き心身の疲労が蓄積するとどうなるでしょうか。
・睡眠負債が蓄積することで、仕事の効率が落ちミスが増える
・精神状態が不安定になり人間関係に支障をきたす
上記のような症状が出てくることで、仕事・プライベート共に上手くいかず、余計にストレスが溜まり悪循環へと陥っていきます。
こうして徐々に心身が侵されセルフネグレクトや自殺へと陥っていくのです。
心のどこかでプライドが邪魔をする

引用:厚生労働省自殺対策推進室
上記の表は30代の自殺者における原因・動機を表したものです。
最も高い割合を占める「健康問題」では、うつ病や統合失調症といった精神疾患が主だとされています。
次に「家庭問題」「勤務問題」と続いています。
仕事をしているなどで、社会とのつながりのある人の場合、過労や精神疲労が蓄積していたとしても、周りの人へ助けを求めることのできない人が多いようです。
それは実際、過去に我々が依頼を受けて向かった、若年層の孤独死現場で見た光景や周囲の声から感じたことです。
たとえ室内に物やゴミが散乱した「ゴミ屋敷」だったとしてもクローゼットにはきちんとシワの伸ばされたシャツが収納されていたり、休日に着る予定だったであろうお洒落な服が掛けられていたりします。
また、故人について周囲の人に伺うと「いい人だった」「真面目な人だった」という声をよく耳にします。
これらは、真面目過ぎるが故に周りに迷惑をかけまいと、自身の闇を抱え込んでしまうことを意味するのではないかと考えています。
「ちゃんとしなければいけない」と外では気丈に振舞うことで更に疲弊し、自宅に戻ると気力体力共に限界を迎え、自身の世話すらできないセルフネグレクトのような状態に陥ってしまう。
30代では、こうした目に見えない根深い闇を抱える方の孤独死をよく目にします。
それは、今回ご紹介した2つの事例も例外ではありません。
孤独死の原因について詳しくはこちらの記事をお読みください。
▼孤独死が起こる原因と対策
まとめ:孤独死を防ぐために我々が思うこと
我々は特殊清掃や遺品整理を通じて様々な死に直面してきました。
今回ご紹介した2つの事例から、孤独死は決して他人ごとではないことを知っていただくことで、少しでも孤独死が減らせたらと考えています。
しかし近頃は、コロナウィルスの蔓延による自粛生活が続いていることで、単身世帯の孤立は加速する一方。
離れて暮らす家族や友人へ、時には連絡を取り合いお互いの近況を話す機会を作るなど、個々の意識が大切だと感じています。
とはいえ、いつどこで起こるかわからない孤独死こそ、多くの人にショックを与るものです。
突然の故人の死を悲しむご遺族の姿を沢山見てきた林商会では、依頼いただいたご遺族・物件の管理者様の不安を少しでも多く取り除けるよう、できる限りの取り組みをさせていただいております。
金額としての表示が不可能な、お客様それぞれに合わせたきめ細やかなサービスは、大変ありがたいことにご好評いただいております。
株式会社林商会では、「特殊清掃」「消臭」「遺品整理」「遺品供養」など、孤独死に関する様々な手続きを一括でご依頼いただけます。
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孤独死全般について詳しくはこちらの記事をお読みください。
▼孤独死とは?増加の原因や対処・予防方法について