お墓に設置されている水鉢の意味や使い方について、気になったことはありませんか?
お墓参りでは必ずといってよいほど使うものなので、作法はしっかり押さえておきたいものです。
この記事では、水を供えるための水鉢について詳しく解説します。
使い方や注意点などを知ることで、先祖や故人への正しい供養ができるようになるでしょう。
目次
お墓のくぼみ「水鉢」とは
水鉢とは、お墓に埋葬されている先祖や故人に水をお供えするための器です。
竿石の前に備えられており、一般的な形状は「四角形」で、上部に深さ数センチほどの楕円形の「くぼみ」が設けられています。
くぼみの部分は水受けと呼ばれ、ここに水を張り故人を供養するのが古くからの使い方です。
また、仏教では「故人の霊がお墓に訪れた際に、その姿が水の表面に映し出される」という考え方があり、清潔な水を保つことで故人への敬意や感謝の気持ちを示せます。
水鉢と花立ての違い
お墓には水を入れる器として、水鉢のほかに花をお供えする花立てがあります。
水鉢は水を張って供養とするためのものであり、花立ては供花を飾るのが役割です。
混同して誤った使い方をするとマナー違反となるため注意しましょう。
基本的に、竿石の正面に1つだけ備えてあるのが水鉢、左右に1つずつ計2か所に設置されているのが花立です。
ただし、最近のお墓には水鉢がないタイプも少なくありません。
お墓に水鉢がある理由とは
お墓に水鉢があるのは、主に仏教の教えや習わしに由来しています。
ここでは、水鉢が必要とされる具体的な理由をみていきましょう。
浄水は「五供」に含まれるから
供養の際のお供えは、「五供(「ごく」あるいは「ごくう」)」が基本とされており、そのうちの一つに浄水が含まれています。
水鉢は、この浄水をお供えするために必要です。
仏教の教えでは、先祖の霊魂は食べものを摂取しないため、水が食べものの代わりとみなされます。
そのため、水鉢には常に清潔で新鮮な水(浄水)を供えることが大切なのです。
五供とは
五供は仏教のお供え物の基本的な構成要素です。
先祖や故人対する供養のために用意されるもので、下記5つで構成されています。
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水手向けに使用できるから
水鉢は古来より水手向け(みずたむけ)にも使用されてきました。
水手向けとは、水を張った水鉢にしきみの葉を浮かべ、葉から滴る水をお墓にかける伝統的な習わしです。
しきみの葉は特有の香りを放ち、故人を邪気や災厄から守るといわれており、故人への思いやりや敬意、感謝を表します。
しかし、現代では水手向けを行う人は少なく、一般的にはあまり知られていない習わしとなっているようです。
納骨堂の蓋の役割があるから
特に関西地方では、お墓の構造上、水鉢が納骨堂(納骨スペース)の蓋の役割を果たしています。
お墓の内部に空洞があり、水鉢をスライドさせてそこから遺骨を入れるのが一般的な納骨方法です。
一方、関東地方では骨壷のサイズが関西地方よりも大きい傾向があり、より広い空間が必要となるため、納骨は水鉢の部分ではなく香炉の下から行われます。
お墓の水鉢の使い方
水鉢に水を注ぐ際にも作法があります。
下記を参考に正しい使い方を身に付けましょう。
1.水受け部分を綺麗に洗う
水鉢を使用する前に、水受け部分を綺麗に掃除します。
屋外にあるお墓の水鉢には、雨や落ち葉、ゴミなどがたまることがあり、汚れたままでは清潔な水を供えることができません。
掃除方法は、後述する「お墓の水鉢を掃除する方法」で詳しく解説しています。
2.柄杓で水を入れる
浄水を供えるには、柄杓(ひしゃく)を使用して水鉢の水受けに水を注ぎます。
ペットボトルなどから直接水を注ぐのは、敬意に欠ける行為とされているので避けてください。
水鉢に注ぐ際は、できるだけたくさんの水を丁寧に注ぎ入れることがよい作法です。
十分な量の水を注ぐことは、供養や心のこもった思いを表す1つの手段で、故人への尊敬や感謝の気持ちを表現できます。
お墓の水鉢にまつわる注意点
お墓の水鉢を適切でない方法で使用すると傷みや汚れにつながるため、下記4点に気を付けましょう。
水以外の飲みものを供えない
お墓の水鉢には水だけを供えるようにします。
水鉢は清浄さと浄化を象徴するものなので、故人が好きだったとしても、お酒やコーヒーなど他の飲みものを入れることは避けてください。
水以外の成分が水受けに残されると、シミや汚れの原因となる恐れもあります。
何らかの理由で他の飲みものをお供えしたい場合は、別の容器に入れて水受け以外の場所に置くようにしましょう。
また、他の飲みものは水の代用にはならないとされているので、水を供えたうえで置いてください。
ペットボトルやコップを使用しない
浄水のお供えは、水鉢に注ぐのが正しい作法です。
ペットボトルやコップに水を入れて水受けに置くのは好ましくありません。
容器が水受けを傷つけるおそれがあります。
また、お供えしたまま帰ってしまうと、残されたペットボトルなどを鳥や小動物が散乱させ周囲に迷惑がかかるかもしれません。
さらに、不審者の気を引き侵入されるきっかけになり得るので、無用なトラブルを防ぐためにもペットボトルやコップを使用しないようにしましょう。
線香を供えない
横長の楕円形をした水受けは、一見線香を供えるのに適した形をしていますが、水鉢で線香を焚くのは避けましょう。
水鉢はあくまで浄水を供えるためのものであり、線香の煙や灰が付着すると清浄さが損なわれます。
また、汚れや変色の原因になる可能性もあるので、線香を供える際は香炉を使用しましょう。
蝋燭を立てない
水鉢に蝋燭を立てると、溶けた蝋がこびりつくので避けたほうがよいでしょう。
線香は香炉の両隣に立てるのが正しい作法です。
適切な場所で使用することで、お墓の清潔さと安全性を保つことができます。
お墓の水鉢を掃除する方法
お墓の水鉢は非常に汚れやすい部分なので、水垢や汚れが溜まらないように気を配りましょう。
ここでは、お墓の水鉢を掃除する方法を紹介します。
水受け部分の掃除
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汚れが取れにくい場合は、少量の墓石専用洗剤を使って汚れを落とすこともできますが、洗剤の使用は適切な量に留めてください。
また、水垢が気になる場合は、墓石に使用できる水垢専用洗剤を使用します。
まずは、目立たない部分でシミや変色が起こらないかをテストをしてから使うと安心です。
水鉢全体も清掃する場合
水受け部分だけでなく、水鉢全体も清潔に保ちましょう。
水で流してからスポンジや布、ブラシなどで軽く擦ってホコリやチリを落とします。
基本的には水洗いのみで十分ですが、汚れが取れない場合は墓石用洗剤使って優しく洗い、十分にすすいで水を切ります。
最後に、乾いた布で水分を拭き取りしっかりと乾かしましょう。
濡れたまま放置すると、カビが発生したり汚れが再び付着したりします。
お墓の水鉢のよくある質問
お墓の水鉢のよくある質問を下記にまとめました。
水の交換を簡単にするには?
水鉢に取り外しができるステンレス製の水鉢皿を設置すれば水の交換が簡単にできます。
また、ステンレスは丈夫でサビにくく汚れも付きにくい素材なので、屋外にあるお墓で使用しても安心です。
水鉢皿の金額相場は2,000~4,000円程度ですが、サイズやデザインによって価格は異なります。
水鉢が必要ないケースもある?
宗教や宗派によって儀式や信仰上の慣習が異なり、下記のように水鉢が必須ではない場合もあります。
神道
神道では、水鉢ではなく「八足台」と呼ばれる台の上に水や食べものを供えます。
そのため、お墓には水鉢が設けられていないケースがほとんどです。
浄土真宗
浄土真宗では、お墓に水鉢を設置する習慣はありません。
教えによれば、「人は亡くなると阿弥陀如来の手で極楽浄土と呼ばれる満ち足りた世界に導かれる」とされています。
極楽浄土では食べるものや水などに恵まれているため、浄水を供える必要はないと考えられているのです。
キリスト教
キリスト教のお墓参りは、白い花を供え神に祈りを捧げるのが一般的な流れです。
水や食べものをお供えするという考え方はなく、お墓に水鉢を設けることはありません。
無宗教
無宗教の場合、お墓に水鉢を設置するかどうかは個人の信条や考え方に委ねられます。
五供に基づいた浄水のお供えは仏教特有のものなので、無宗教のお墓では水鉢が備わっていないケースが大半です。
特にデザインを重視した洋風のお墓では、汚れやすい水鉢を設置することが少なくなっています。
水鉢を新たに設置するには?
お墓に水鉢を新たに設置する場合、地域の石材店や墓石業者に依頼するのが一般的です。
状態にもよりますが、建ててから10年ほど経っているお墓でも、水鉢単体、あるいは香炉と一体化した水鉢などを後付けできます。
墓石の種類や施工方法などで価格が大きく変わるため、複数の石材店や墓石業者から見積りを取り、信頼できる業者に依頼しましょう。
まとめ
お墓に設置されている水鉢は、亡くなった方の食事となる浄水をお供えするための器です。
水受けには柄杓を使って浄水のみをお供えし、ペットボトルや線香、蝋燭などを使わないようにします。
正しい使い方や作法を身に付け、故人への敬意や感謝の気持ちを表しましょう。