相続財産の時効取得とは、他人名義の不動産などを20年(または10年)占有し続けると所有権が得られる制度です。
しかし、時効取得が成立するためには要件が定められており、必ず所有権が認められるというわけではなく、主張しても認められない場合もあります。
この記事で紹介している要件や注意点、手続きの流れなどをぜひ参考にしてみてください。
目次
時効取得の基礎知識
時効取得とは、他人のものを一定期間占有していた場合に自分のものになることですが、トラブルがおきやすいため注意が必要です。
この章では、時効取得の基礎知識を紹介します。
相続の時効取得とは
相続の時効取得とは、他人のもの(不動産など)を一定期間占有していれば、占有者に所有権が移ることを指します。
他人と争うことなく相続した財産を占有し続けていれば、財産の名義が以前の所有者のままであっても、自分のものにすることが可能です。
近年は、所有者不明の不動産を有効活用するために使われるケースが多く見られます。
時効取得が問題になるのはどんなとき?
時効取得が問題になるのは、以下のようなケースです。
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上記のようなケースで時効取得の問題が発生した場合は、専門家にサポートしてもらうとよいでしょう。
時効取得が成立するための4つの要件
時効取得が成立するためには、4つの要件すべてを満たさなければなりません。
この章では、時効取得が成立するための4つの要件を紹介します。
所有の意思がある
時効取得を成立させるには、「自分のものだ」という所有の意思をもって占有を始めたこと(自主占有)が必要です。
自主性があったかどうかが重要なポイントで、これが認められなければ、時効取得は成立できません。
平穏かつ公然の占有である
時効取得を成立させるには、平穏かつ公然の占有でなければなりません。
「平穏」とは脅迫や暴行の行為がないことで、「公然」とは隠していないことを意味します。
どちらか片方でも当てはまると、時効取得は成立できません。
他人の物を一定期間(20年または10年)占有している
時効取得を成立させるためには、他人の物を20年または10年占有していなければなりません。
時効取得が成立する年数は、占有開始時にどのような意思をもっていたかで異なります。
占有開始時に悪意または善意有過失(注意していれば防げた過失)の場合、時効取得に必要な期間は20年ですが、善意無過失(善意かつ注意していても防げなかった過失)の場合は10年です。
時効の成立を主張する(時効の援用)
時効取得を成立させるには、時効の援用が必要です。
「時効の援用」とは、時効の成立を主張することで、その効果を決定的に発生させる意思表示を意味します。
法律上の所有者にこの意思表示をしなければ、時効が完成していても利益を受けられません。
なお、時効の援用は、司法書士や弁護士に代理人を依頼できます。
時効取得できるもの
時効取得できる権利は5つあり、すべて土地に関するものです。
この章では、時効取得できるものを紹介します。
所有権
所有権とは、法令の制限内で対象物を自由に使用・収益・処分できる権利です。
誰にでも平等にある権利で、所有権が認められる代表的な例には、不動産や車などがあります。
また、人が物を直接支配する権利の中で最も典型的で完全なものであるため、所有権を妨げられた際には返還や妨害排除、妨害予防などの請求ができます。
貸借権
貸借権とは、賃貸借契約に基づく居住者の権利です。
借主は契約内で目的物を使用できる一方で、土地の所有者に賃料を支払う必要があり、建物の売却や建て替えの際には所有者の承諾が必要です。
また、資材置き場や青空駐車場など建物の所有が発生しない場合は、貸借権は発生しません。
地上権
地上権とは、他人の土地を使用する権利です。
土地の利用方法について基本的に所有者の承諾は不要で、貸出や売却、担保の設定ができます。
ただし、登記義務がある点には注意しましょう。
地役権
地役権とは、自分の土地の利便性を高める一定の目的のために、他人の土地を利用できる権利です。
地役権には以下のようにさまざまな種類があります。
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永小作権
永小作権とは、小作料(地主に支払う土地の借り賃)を支払うことで、他人の土地で耕作や牧畜を行える権利です。
この権利を持っている人を、永小作人と呼びます。
永小作人は土地の所有者との契約の範囲内で耕作や牧畜に従事し、収穫物をすべて手に入れることが可能です。
しかし、1952(昭和27)年の農地法制定によって地主・小作関係は崩壊したため、新規で設定される例はほとんどありません。
時効取得が認められるケース・認められないケース
時効取得が認められるために最も重要なポイントは「所有の意思」の有無です。
所有の開始原因が賃借や使用貸借の場合は認められません。
この章では、所有の意思が認められるケースと認められないケースについて紹介します。
「所有の意思」が判断の重要ポイント
先述の通り、時効取得には以下の4つの要件があります。
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上記の中でも「所有の意思」の有無が、判断するうえでとても重要です。
たとえば土地を借りている人は、何年住み続けても時効取得はできません。
所有の意思があるかどうかは、どのような理由で使い始めたかによって判断されます。
そのため「自分のもの」という意思をもって住まなければ、自分のものにはなりません。
所有の意思が認められるケース
占有者がどう思っているかではなく、占有取得の原因を客観的に判断できなければなりません。
つまり、自己判断だけでは決められないということです。
たとえば、他人の物を売買によって入手した場合、購入者には所有の意思があると判断されます。
上記のように客観的事実があることで、時効取得の成立が認められます。
所有の意思が認められないケース
賃貸や使用貸借(対価を支払わずに使用収益ができる権利)として使っていると、所有の意思は認められません。
なぜなら占有取得の原因は借りる契約で、所有権を取得する契約ではないからです。
このような場合は時効取得は成立せず、長年住んでいても自分の土地にはなりません。
また、遺産分割の結論が出るまでは相続人が法定相続分で共有している状態のため、たとえ先祖代々から受け継いだ実家に住み続けていても所有の意思は認められません。
相続の時効取得で注意すべきこと
相続の時効取得で注意すべきことは、税金と登記手続きです。
見落としやすいポイントなので、事前に確認しておきましょう。
この章では、相続の時効取得で注意すべきことを紹介します。
所得税の課税対象になる
相続の時効取得で得た財産は相続税の課税対象だと考えがちですが、一時所得として所得税の課税対象です。
一時所得の金額は、以下の計算式で算出します。
「一時所得の金額=取得時効した財産の時価-時効取得するための費用-特別控除額(最高50万円)」
時効取得で所有権を得ても登記は必要
時効取得で所有権を得ても登記は必要です。
登記は一定の事項を公に示すため、公開された帳簿に記載することを指します。
所有権移転の登記手続きしなければ、時効取得を主張できません。
時効取得の際の登記手続きの流れは以下の通りです。
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時効取得を主張する手続きの流れ
時効取得を主張する手続きの流れは、相続人全員に協力を得られるかどうかで異なります。
また、手続きについて2024年から変更となる内容があるので、押さえておきましょう。
この章では、時効取得を主張する手続きの流れを紹介します。
登記名義人の相続人全員の協力が得られる場合
遺言がない場合、相続手続きをする際には他の相続人の協力が必要になります。
相続人全員の協力が得られたら、時効取得の援用の意思表示を行いましょう。
その後、法務局で所有権移転登記の手続きを行います。
登記名義人の相続人全員の協力が得られない場合
相続財産に含まれる土地や建物の名義が長年に渡って名義変更されていない場合、登記名義人である相続人全員の協力が必要です。
しかし、いきなり時効取得を主張した人への協力に難色を示すケースが多いでしょう。
このように登記名義人の相続人全員の協力が得られないときは、以下の流れで時効取得を主張します。
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【注意!】相続登記は2024年4月に義務化される
これまで相続登記(不動産の名義変更)は任意でしたが、2024年4月に義務化されるので注意が必要です。
義務化を知らずに放置していると罰則の対象になるので、忘れずに早めに手続きをしましょう。
また、所有権を取得した人は、所有権の取得日から3年以内に相続登記をする必要がある点にも注意が必要です。
時効取得の登記申請方法
時効取得の登記申請方法は状況によって異なるので、違いを理解しておきましょう。
この章では、時効取得の登記申請方法を紹介します。
時効で不動産所有権を取得した人・失った人の共同申請の場合
時効により不動産の権利を取得した人は登記権利者で、権利を失った人は登記義務者になります。
両者の共同申請の際には、登記義務者が以下の必要書類を準備します。
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裁判所の和解・判決による場合
裁判所の和解や判決による場合は、時効により不動産の権利を取得した人が単独で登記申請できます。
この場合、共同申請の際に登記義務者が準備する書類は不要です。
ただし、事前に「法定相続分で所有権を移転する」登記と「時効相続した相続人名義に他の相続人の持分全部を移転する」登記を必ず行いましょう。
知らない間に時効取得されないためには、ココに注意!
自分の土地を放置していたり確認不足だったりすると、時効取得されやすくなってしまいます。
この章では、知らない間に時効取得されないための注意点を紹介します。
不法占拠者をチェック
まずは不法占拠者のチェックをこまめに行う必要があります。
なぜなら他人の土地を不法占拠している者にも、時効取得が認められる恐れがあるからです。
そのため、自分の所有地はしっかりと管理しなければなりません。
別荘所有者は定期的なチェックと管理が重要
別荘所有者は定期的なチェックと管理を怠らないようにしましょう。
なぜなら、自宅から離れた別荘は管理の目が届きにくいからです。
知らない間に時効取得されないためには、定期的に別荘を巡回するなど、適切に管理しましょう。
隣人との境界線トラブルは早急に対応
隣人との境界線トラブルには、早急に対応しなければなりません。
なぜなら、隣地の建物が増築工事などで自分の敷地内にはみだしている場合、将来その土地部分が時効取得されてしまう恐れがあるからです。
このような場合には、すぐにはみ出している部分を撤去してもらいましょう。
相続の時効取得についてのご相談は林商会にお任せください!
ここまで、時効取得が成立するための要件や必要な手続きなどについて解説してきました。
時効取得を主張しても認められないケースがあるなど、専門知識がなければ正しい判断や適切な対処が難しく、不安に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような不安やお悩みは、相続のプロ集団である林商会にお気軽にご相談ください。
時効取得についての疑問点やお悩みの一つひとつに丁寧に耳を傾け、最善の解決策をご提案します。
まずは無料相談からお気軽にご連絡ください。
まとめ
本記事では相続財産の時効取得について紹介しました。
相続の時効取得とは、他人のものを一定期間占有していた場合、占有者に所有権が移ることを意味します。
時効の取得には4つの条件があり、特に所有の意思が重要です。
相続についてお悩みの方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。