海外でも注目度が高まっている「ZEN」という表現。
そのベースになっているのが禅宗です。
しかし、「禅宗ってどんな宗派?」「禅宗の仏壇や仏具の飾り方は?」と疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、代表的な禅宗である曹洞宗や臨済宗の仏壇についてご説明します。
目次
禅宗は「坐禅をする宗派」の総称
禅宗は「坐禅を行う宗派」をまとめて言う言葉であり、実を言うと禅宗と呼ばれる宗派は存在しません。
したがって「誰が開いたのか」「いつ始まったのか」という疑問に対しても、明確な答えを得られないのが現状です。
あえて答えを出すとすれば、お釈迦様の仏法である「禅」を中国に伝えた菩提達磨が開祖に相当し、教団として形を成し始めた6世紀後半頃が禅宗の始まりと言ってもよいでしょう。
禅宗の代表的な宗派に「曹洞宗」「臨済宗」「黄檗宗」があり、これら3派をまとめて日本三禅宗と呼びます。
曹洞宗の仏壇
最初に、曹洞宗の仏壇について解説します。
基本の飾り方やお盆の飾り付けについても触れますので、ぜひ参考にしてください。
曹洞宗について
本尊
曹洞宗のご本尊は、お釈迦様とも呼び親しまれている釈迦如来(釈迦牟尼仏)です。
仏壇には座っている姿を現した座釈迦如来像を祀ります。
脇侍・脇掛(掛け軸)
曹洞宗の場合、右脇侍は承陽大師、左脇侍には常済大師を祀ります。
承陽大師は鎌倉時代の僧侶であり、曹洞宗の開祖です。
常済大師は曹洞宗4代目の祖で、曹洞宗の隆盛に大きな貢献をした人物として知られています。
総本山
曹洞宗の総本山は2つに分かれており、福井県の永平寺と神奈川県横浜市の總持寺があります。
このように1つの宗派に2つの大本山があることを両大本山と言います。
どちらも曹洞宗にとって重要な信仰の源です。
お唱えする言葉
曹洞宗では「南無釈迦牟尼仏」という念仏を唱えます。
「釈迦牟尼仏に帰依する」との意味が込められており、お釈迦様に対する信仰心を示した言葉です。
よく読まれる経典
曹洞宗で読むお経は限られており、次のようなものがあります。
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歴史
曹洞宗はもともと中国の宗派でしたが、日本にいた道元という僧侶によって鎌倉時代前期に伝わったと言われています。
その際に建てたのが大本山の一つである永平寺で、道元は正しい仏法を唱えながら弟子の育成に力を入れました。
後に第4代宗祖の瑩山(けいざん)が現在の神奈川県横浜市に總持寺を建立し、曹洞宗を大いに発展させたとされています。
教え
曹洞宗では、ひたすら坐禅をすることが悟りの道につながり、坐禅をする姿こそが仏であるという教えがあります。
坐禅を通して生かされて生きていることに感謝し、一行一行の積み重ねに命をかけることが大切という教えです。
曹洞宗で仏壇を祀る意義
仏教において仏壇とは、仏教徒として生きるうえで信仰実践のよりどころとなる存在です。
曹洞宗では、「端坐・合掌・礼拝」を信仰実践の基本とします。
穏やかな心で端坐し、お釈迦様へと合掌・礼拝することで私たちが日々の生活で自分を省みつつ、お釈迦様の教えを実践する力がみなぎると説いています。
つまり仏壇に手を合わせるという行為には、人は生かされて生きており、今の自分が存在しているのはお釈迦様やご先祖様、さらには家族や周囲の人々のおかげであると自覚する「報恩感謝」の実践としての意義があるのです。
この実践が参拝者の心に安らぎを与え、信仰実践の活力になるとされています。
曹洞宗の仏壇・仏具・お供えもの
曹洞宗の仏壇は、金仏壇以外であればどのタイプでも問題ありません。
ご本尊と脇侍は決められたものを用意しますが、他の仏具については他宗教と同様のものでよいでしょう。
また、信仰対象として祀るのはご本尊だけでもよく、より丁寧に飾りたい場合に脇侍を設けます。
特に、モダン仏壇やミニ仏壇などのコンパクトな仏壇は飾るスペースが限られるため、仏具を必要最低限に減らすなどの工夫が必要です。
ちなみにご本尊は仏像と掛け軸のどちらでも構いません。
仏壇の大きさや雰囲気に合わせて選びましょう。
ご本尊と脇侍は仏壇の最上段へと祀り、中央にご本尊、その左右に脇侍を飾りますが、ご本尊よりも少し低い位置で飾ってください。
位牌は必ずご本尊のよりも小さいサイズで作成し、仏壇中段の右側・左側に古いものから順に置きましょう。
仏飯とお水は、仏壇中段の中央に供えます。
花立・香炉・燭台の三具足は、仏壇最下段の左側から順に並べるのが基本です。
ただし、仏壇のタイプや大きさによっては位置が変わったり五具足として供えたりする場合があります。
また曹洞宗では、お釈迦様が南向きに座って説法を唱えたという由来から「南面北座説」を推奨しています。
とは言え、多様化しつつある現代の住宅事情を考えると、必ずしも南向きに仏壇を配置できるとは限りません。
よって方角はあくまで推奨のため、あまり気にせず、ライフスタイルや利便性を踏まえたうえで最適な置き場所を決めることをおすすめします。
曹洞宗の仏壇・仏具の選び方や飾り方について詳しく知りたい方は、下記リンクから内容を確認してください。
曹洞宗のお盆について
ここからは曹洞宗のお盆について解説します。
お盆は故人のよりよい供養につながる年に1度の特別な行事であるため、しっかりと内容を把握しておきましょう。
曹洞宗のお盆の時期
曹洞宗のお盆は他の宗教と同様、新暦の8月13〜16日の4日間で行われます。
地域によっては旧暦盆(7月13〜16日)となっている場合もありますが、供養の仕方や内容は変わりません。
曹洞宗のお盆の迎え方
曹洞宗に限らず、お盆を迎える際は早めに用意をしておくことが大切です。
お盆では準備から最終日のお見送りまで多くのことをしなければならないため、しっかりと要点を押さえておきましょう。
準備
お盆の月である8月に入ったら、亡くなった人をお迎えするため、仏壇の掃除をしておきましょう。
仏壇はご先祖様や故人がお盆期間を過ごす大切な場所です。
仏壇を傷つけないように、やわらかいハタキや雑巾を使って丁寧にホコリを取り除いてください。
同時に盆棚(精霊棚)も組み立てておきましょう。
また、お盆前にはお墓の掃除も欠かせません。
できれば家族全員でお墓に行き、墓石を磨いたり周辺の草むしりをしたりして、ご先祖様が気持ちよく帰って来られるようにしましょう。
加えてお盆初日と最終日に行う迎え火・送り火のおがらや焙烙(ほうろく)も用意しておくと、スムーズに当日を迎えられます。
8月13日
お盆当日、8月13日の夕方にご先祖様が帰ってくるのに備えて、午前中のうちに菩提寺やお墓に参拝しましょう。
地域によってはお墓ではなく、自宅でご先祖様をお迎えする場合もあるようです。
お墓で参拝する場合は、お花・お線香・ろうそくを供え、盆提灯に火を移します。
自宅に戻ったら、持ち帰った盆提灯の火で盆棚の提灯に火を灯してください。
その後は地域の習わしにしたがって、自宅の門前または玄関前で迎え火を焚きましょう。
夕方には家族全員で仏壇に向かい、自宅に帰られたご先祖様に手を合わせます。
8月14~15日
お盆の中日にあたる14〜15日は菩提寺の僧侶を招き、法要を行います。
お盆期間中は提灯の灯りが消えないようにし、お供えものは必要に応じて取り替えましょう。
8月16日
お盆最終日の16日には、ご先祖様が死後の世界へ戻られるため、送り火を炊き見送ります。
迎え火と同じく、自宅の門前または玄関先で行なってください。
ご先祖様を送り出したら、精霊棚やお供えものを片付けましょう。
食べもの以外のお供えものは菩提寺に持っていき、お焚き上げしてもらいます。
お盆飾りを片付ける日に決まりはありませんが、できれば翌日の17日中、遅くても8月中には片付け終えましょう。
曹洞宗の盆棚の飾り方
曹洞宗の盆棚は、基本的に他の宗教と同じです。
ただし、曹洞宗ならではのお供えものや飾りもあるため、以下で解説します。
準備物
曹洞宗の盆棚には以下のものを飾るのが通例ですが、地域による違いもあるため、事前に確認して準備しましょう。
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飾り方
始めにまこもで作られたゴザを盆棚の中心に敷きます。
盆棚の上段中央には位牌を安置し、手前に水、左側に花立、右側にろうそくを置きましょう。
下段には左側から精霊馬・生菜・浄飯(霊供膳)・水の子・果物・浄水・精霊牛の順に飾ります。
地域によってはここにお団子やそうめん、ぼた餅も置くこともあるので、必要なものを確認しておきましょう。
続いて盆棚の前に机を置いて、お線香と香炉、おりんを置きます。
盆棚の左右には盆提灯を飾ってください。
最後に竹を支柱として盆棚の四方を縄で囲み、奥の縄にホオズキや掛け袋、五色旗をかけます。
臨済宗の仏壇
続いて臨済宗の仏壇について解説します。
臨済宗が確立するまでの歴史や教えについては曹洞宗と異なるため、注意しましょう。
臨済宗について
本尊
臨済宗では曹洞宗と同様に、釈迦如来をご本尊としていますが、地域や菩提寺によっては薬師如来、観世音菩薩を祀ることがあります。
脇侍・脇掛(掛け軸)
臨済宗は各宗派で脇侍の組み合わせが異なり、左脇侍にはそれぞれの宗派における開山を祀っているのが特徴です。
臨済宗全般としては、左に普賢菩薩、右に文殊菩薩を祀ります。
総本山
臨済宗の総本山は14か所にわかれ、それぞれが宗派名となっています。
総本山の名前と所在地は以下の通りです。
総本山(派) | 所在地 |
妙心寺 | 京都市右京区 |
建長寺 | 神奈川県鎌倉市 |
円覚寺 | 神奈川県鎌倉市 |
南禅寺 | 京都市左京区 |
方広寺 | 静岡県 |
永源寺 | 滋賀県 |
彿通寺 | 広島県 |
東福寺 | 京都市東山区 |
相国寺 | 京都市上京区 |
建仁寺 | 京都市東山区 |
天竜寺 | 京都市右京区 |
向嶽寺 | 山梨県 |
大徳寺 | 京都市北区 |
国泰寺 | 富山県 |
唱える言葉
臨済宗では曹洞宗と同じ「南無釈迦牟尼仏」を唱えます。
よく読まれる経典
臨済宗には特定の経典がありません。
しかし、一例として次のような経典が読まれています。
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歴史
臨済宗が日本に伝わったのは鎌倉時代初期であり、栄西という僧侶が開祖です。
臨済宗が教団としての形を成した後、中国の僧たちによる影響を受けて14の宗派ができたと言われています。
現在最も多いのが臨済宗妙心寺派であり、全国にある臨済宗寺院のうち約半数以上が妙心寺派です。
教え
臨済宗では「平常心是道」という禅語に基づいて、日頃の一行一行すべてが悟りの道であるとし、生活の中に自身の宗教的人格を形成していくのが「禅」だと説いています。
また坐禅を通して、人が本来もつ仏の心を自ら感じ取ることが大切ともされています。
修行者は坐禅によって師の公案を解き明かして自己を見つめ直し、悟りを目指していくというのが臨済宗の特徴です。
臨済宗の仏壇の飾り方
臨済宗の仏壇や仏具の飾り方は、曹洞宗とほとんど変わりません。
仏壇の向きも曹洞宗と同じく南面北座説が有効です。
ただし、臨済宗の脇侍は宗派によって異なるため、信仰する宗派の詳細を確認しておきましょう。
黄檗宗について
黄檗宗は、中国禅の特徴である華厳・天台・浄土の流れを組んだ中国式の宗派であり、日本三禅宗の中でも少し異質です。
日本では宗祖を「隠元禅師」、総本山を京都府宇治市の「黄檗山萬福寺」とし、臨済宗の伝来から400年以上経った江戸時代に確立しました。
そのため、儀式や作法、経典の読み方、仏具などは曹洞宗・臨済宗とは大きく異なり、特に読経には梵唄(ぼんばい)という独特な節回しがあります。
法要や葬儀の際は銅羅や太鼓などの楽器を使い、梵唄に合わせて鳴らすため、他の宗教よりも賑やかな雰囲気です。
教えについても黄檗宗ならではの考え方があり、「唯心の浄土・己心の弥陀」という言葉にまとめられています。
「仏を含め、この世に存在するすべてのものは心の中にあり、阿弥陀仏や極楽西方浄土を目指すのであれば自分の心に宿る仏性を見出すのが大切」というのが言葉の真意です。
このことから、黄檗宗は自己を解き明かすといった哲学的な考えをもつ宗派と言えるでしょう。
とは言え黄檗宗は「念仏禅」という修行方法をとっており、「看話禅」や「坐禅」とともに大切に扱われているため、曹洞宗・臨済宗にも通じる部分もあります。
特に、経典を読むことよりも自身の内省を深めるべきという考えは、臨済宗との強いつながりが確認できるでしょう。
まとめ
一般的に禅宗と呼ばれる宗派は「坐禅によって悟りを目指すこと」を大切にしており、曹洞宗、臨済宗、黄檗宗であっても変わりはありません。
また、仏壇や仏具の飾り方に関してもそれほど大きな違いはなく、仏壇供養の基本さえ把握していれば問題ないと言えるでしょう。
ただし、宗派によって教えやしきたり、信仰対象は異なるため、自分が信仰する宗派の内容をしっかりと理解しておく必要があります。
仏壇や仏具を購入する際にどれを選べばよいのかわからないといった場合には、1度お世話になっている菩提寺へ相談することをおすすめします。